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長編エピソードなので10話づつ投稿します
戦争が起きるのと大きな火事が起きるのは似ている。
小さな火種がじわじわと大きくなり、気づいた時には自力で消せるものではなくなって、人は逃げるしかなくなる。
つまり俺たちのところにハルトル宰相がきたということは、もう火種がすぐそばまで近づいてきたということだったのだろう。
「真柴大使、日本大使館の皆様全員に緊急のお話があります」
ハルトル宰相とエイン魔術官がそろって大使館にやってきたのは入札会を終えて少し経った3月上旬、昼ご飯後の休み時間のことだった。
「承知しました。会議室でお待ちください、いまお茶の準備を「不要です」
そういって遮るので「承知しました」と小さく頭を下げた。
ハルトル宰相がここまで言うほどの緊急事態には心当たりがあった。
ヴィクトワール上級魔術官が初めてここに来た時に言っていた『西の国と教会が異教徒討伐の名目でこの地を狙っているという噂』があると言っていた、それが現実になったという可能性だ。もしそうだとするならあまりにも厄介だ。
全員が会議室に集合するとハルトル宰相が口を開く。
「3日前、西の国の王都から教会の騎士団と西の剣の騎士団及び異教徒征伐有志隊合わせて1万人がこちらを目指して進軍を開始しました。各地からも騎士団と希望者が集結していて最終的には5万から7万人に達する見込みです。
日本政府には金羊国国内からの避難希望者の受け入れをお願いしたいんです」
予想通りの厄介ごとが予想以上の規模で押しかけてきた。
(十字軍が確か10万人程度だからそれよりは少ないか)
だとしてもまだ建国から10年ちょっと、人口も15万人程度のこの国に押しかけてくる兵士としては多い。
「人道的な観点から受け入れは可能ですが数や待遇についてはあまり期待しないでくださいね」
「当然のことです。グウズルンの見立てでは麦の収穫が始まる5月には帰るだろうということですから年単位での難民受け入れにはならないと思います」
嘉神のほうに目を向けると了解したという風に頷いて「金羊国から日本へ派遣予定の方をお借りできますか」とハルトル宰相に問えば「ロヴィーサですね、同行させましょう」と即座に了解が出た。
「俺と木栖・柊木先生で戦況の把握、嘉神と納村は金羊国からの避難希望者受け入れ、飯山さんは身の安全を優先で帰国準備でお願いします」
「どうして僕は帰国なんですか?」
飯山さんの間延びした言葉遣いがちょっと短くなっている、状況に飲まれたんだろうか。
「あくまで飯山さんは民間人ですので身の安全を優先してください」
「わかりました」
納村も一応民間人だが日本で避難者受け入れに奔走してもらうので、こちらにいるよりは安全だろう。
火がすぐそばまで近づいていた。




