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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
8:赤い実はじける大使館

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86/323

8-9

入札の結果発表が終えて契約書が締結されるのを見届けたヴィクトワール上級魔術官は、ものすごい速さで相模さんを捕まえると手を引っ掴んでひたいに指を置いた。


「え、あの、ゔぃくとわーる、さん?」


相模さんがおっかなびっくりヴィクトワール上級魔術官の名前を呼んだ。


すると彼女はぶんぶんと頷いて何かしゃべりだした。


「イケた!最初っから魔術でやりゃよかったんだ!」


「魔術?」


「そう、接触伝達魔術!触れた相手と言葉を使わずに意思疎通する魔術だ!まさか異世界人に通じるとはね!これで何とかなるな!」


一目惚れとの相手との円滑なコミュニケーション方法を見つけて上機嫌なヴィクトワール上級魔術官は置いといて、何をされたのかよくわかっていない相模さんは俺に助けを乞うように尋ねてきた。


「……今なんかピリピリって静電気みたいのがきたんですけど」


「魔術による意思疎通方法を見付けたみたいです」


「そうですか」


「色々と危険人物なので大使館のほうでもいちおう注意していますがこういうやらかしはなかなか処理できなくて」


先ほどはゆっくり見られずにいたが全体の印象としてはやはりチワワと言っていいだろう。


少し重めの髪の毛で瞳を隠しているが、150センチあるかないかという小柄さや丸みを帯びた頬や桜色の唇など庇護欲をそそるようなところはある。


年齢的にもどれだけ年上に見積もっても35歳以下だろう。


「これから仕事上関わるわけですし、なんとか上手くやっていけるように頑張ります」


若くして得た大きな仕事への意気込みの感じられるひとことである。


意気込む若者に四十路の俺が言えることは対して多くはない。




「セクハラやストーカー行為が起きたらいつでも大使館にお声がけください」




****




その日の夜、俺と飯島は金羊国の客人3人を居酒屋に連れていくことにした。


「金羊国と日本の恋愛の作法の違いについて覚えておいてほしいことがある」


そう、コイバナである。


さすがにこれは酒があったほうがいろいろ気まずくないし、何より今日は俺が酒が飲みたかった。


「恋愛の作法って言っても人の気持ちのことだしそんな変わらないんじゃ?」


「日本において同性愛カップルは法的に保障された関係じゃないからいきなり同性から恋愛的な好意を寄せられても困惑するだけだぞ」


ドライバーを引き受けてくれた飯島はノンアルコールビールを飲みながらそう告げ、俺はハイボールをちびちびと飲む。


金羊国では蒸留酒は全部輸入品だからあり得ないくらい高価なうえ、買ってもアルコール燃料みたいな味がしてあまりおいしくないのだ。どうやらウィスキーのように蒸留後熟成するという文化はないらしい。


こういう時日本と金羊国の技術水準の差の大きさを思い知る。


実際我関せずモードに入ったらしいエルヴァル物流担当官はビールと塩焼き鳥とナムル盛り合わせを無心で咀嚼し、日本食大好きヘルカ魔術官は話に聞き耳を立てつつ揚げ物とシャンディガフの無限ループに突入していた。


「法的保証もないし家族との関係に影響するうえ地域によっては宗教上の理由で迫害されて殺されるって、こっちの同性カップルの現状めんどくさいですね」


ヴィクトワール上級魔術官がだし巻き卵を片手にそう呟いた。


そのひとことで木栖のことを思い出し、あいつもゲイであるが故の面倒なことが色々あったのかもしれないという気がして帰りに土産でも持っていこうという気分になった。

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