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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
7:大使館はウィンター・バケーション

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7-9

朝食後に遅めのチェックアウトを済ませると、のんびり高崎線に揺られて実家の最寄り駅に降りる。


見覚えのある馴染みの景色を北関東特有の冷たく乾いた強風が吹き抜けるのを肌で感じると、戻って来たなと思いする。


亡き父が母の妊娠を機に意気込んで建てた家は長らく俺と母のふたりだけのものであったが、俺の金羊国赴任を機に借家となったものの夏から年末の間借りていた借主が退去したため今は空き家だ。


「ただいま」


玄関を開けると少し埃っぽい匂いがするが、確かに覚えのある実家の匂いがする。


机やベッドなどの大きな家具もほとんどそのままで確かにここは俺の家だ。


窓を少し開けて建物中の空気を入れ替え、2階の物置部屋に移した(人に貸すにあたりさすがにそのままには出来なかった)仏壇に手を合わせ、自分の部屋のベッドに寝そべる。


馴染みのある家庭用消臭剤の偽物っぽい花の匂い。覚えのある肌触り。


「ようやく家に戻ってこれたな」


1月下旬の風は冷たくも幸いまだ日差しもあるからもうしばらく開け放しておこう。


思い出に包まれながらしばらくうたた寝をすることにした。




****




起きたら外は夕暮れだった。


思ったよりも本気の昼寝をしていたらしい。


さすがに冷たくなり過ぎた風を防ごうと窓を閉め、そういえばまだ母の顔を見ていないことを思い出した。


元々こっちに戻ることを選んだのは母の顔を見つつのんびりするためだ。


しかしもう時刻は夕方。外に出る気は湧かないし、何より会ってもまた亡き父の名で呼ばれるだけなのだ。


「……まあ、見に行くのはいつでもいいか」


そう気を取り直して今日は出前でも取ろうと思った。


どうせならば金羊国では食べられないものにしよう、出来れば王道の日本食がいい。寿司とか蕎麦とか。


「しばらく食べてないな、蕎麦」


そう気づくと無性に食べたくなるのが人間というものだ。


母が元気だった頃によく頼んでいた蕎麦屋の事を思い出す。


あの店はまだあるだろうか、そんなことを考えながらタウンページをめくってみる。


「無い」


他にも母と行った店の情報がないか、探してみるがそのほとんどが消えていた。


母が認知症になってから外食も随分縁遠くなっていて、地元よりも霞が関のほうが詳しくなっていた自分に呆れてしまう。


思い返すと母が認知症になってから金羊国赴任までの10年は母と仕事以外の物事が記憶になく、金羊国赴任後の日々の面倒臭くも賑やかしい記憶の数々に苦笑が漏れる。


「母と仕事以外のことを、少しは考えろって事なのかもな」


そう呟きながらスマホで出前をしてくれる蕎麦屋を探すことになるのだった。

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