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金羊国と日本には1ヶ月ほどの暦のずれがあるが、今回ほどそのずれに助けられたと思った事はない。
こちらでは年末に向かおうとする12月下旬でも日本では年末年始のばたばたも落ち着いた1月中旬に差し掛かっており、お陰で書類の分析を冬の休暇まで持ち込まずに済んだ。
(……いや、暦のずれのこと忘れてたのは俺のほうなんだがな)
指摘されるまで自分の脳内からすっぽり抜けていた事実に少しため息が漏れた。
日本と金羊国を繋ぐ駅舎の前で凍てついた冬の風を受けながら同行者のほうを見た。
「ロヴィーサさん大丈夫ですか?」
グウズルン情報管理官の部下でこの春から日本への赴任が内定したという白うさぎの獣人女性のほうを向くと、興味深げに周囲をきょろきょろと見渡しながら「大丈夫です」と告げる。
正装のマントをぎゅっと抑えてるのは関東特有の乾いた冷たい風のせいだろうか。
すると真赤なCX5が目前に止まって顔なじみが現れる。
「お疲れさま、あと新年おめでとう」
「金羊国はまだ年明けてないけどな。彼女はロヴィーサさん、以前来たグウズルン情報管理官は覚えてるだろう?彼女の部下で、駐日大使にも内定してる」
今回も自慢の愛車で迎えに来た飯島をロヴィーサさんに紹介する必要がある。
意識と言語を切り替えてロヴィーサさんのほうを向く。
「ロヴィーサさん、彼は日本の外務省に籍を置く官僚で異世界との交流を管轄する部署の長で飯島匡貴と言います」
「よろしくお願いします」
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さて、今回の目的はグウズルン情報管理官が見せてきた書類―放火事件を起こす代わりに財産を分け与えるという犯罪契約のだが―の証明である。
「以前世話になった警視庁の水村さんだっけ、今回も彼に協力が得られた」
「またあいつか」
警視庁の水村青葉は高校・大学を通じて同じバイト先で汗を流した顔見知りで夏に宰相誘拐事件の際犯人特定に協力して貰ったが、まさかここでも協力してもらう事になるのか……と思ったがあいつの事なので異世界絡みなら面白いこと起きないかな~とかそう言う事のような気がする。
どういう経緯で警視庁に話が行ったのかを問いただしたいが他に気になるポイントもある。
「というかあいつの専門は映像だと聞いたんだが」
「彼を通して警視庁捜査支援センターの筆跡鑑定とDNA鑑定の担当者と器材の予定を開けてもらったんだよ」
「無理をねじ込むな」
「民間に依頼するのも考えたんだけど警視庁に任せたほうが安心かなって」
「見学許可は?」「取れてる、異世界人に口でどうこう言うより見てもらうほうが早いしね」
普通に俺は民間でも良かったんだが、そうなってしまったものは仕方ない。
ロヴィーサさんにこの辺の事情を説明すると彼女は「了解しました」と明瞭な答えが返ってくる。




