1-4
2月上旬のある週末、大使館料理人の面接が行われることになった。
候補として呼ばれた料理人は3人、舌に合うかどうかも確認したかったのもあり今回は五反田にレンタルキッチンを借りて行う事にした。
「わざわざそこまでするとは思わなかった」
木栖が驚きのこもった声で呟きながらレンタルキッチンでコーヒーを淹れる。
「文化水準があまり高くない地域だと食事ぐらいしか楽しみがないからな」
「それもそうか」
新大使館のある土地は逃亡奴隷が建国宣言したもののまだあちらの世界では国家として認められてないという背景や、その建国宣言自体もまだ10年ほど前のものであることを踏まえれば文化水準がまだあまり発達してなさそうだという推測はできる。
その後到着した嘉神や納村と共に『どんな人を大使館料理人として採用するか?』という基準を話し合う。
「少なくとも異世界だとどんな食材があるか分かりませんし、ある程度変わった食材の扱いに慣れてる人がいいと思います」とは嘉神の弁。
ポリネシア地域や南米を転々としてきた事もあり、日本人の舌に合わないものを上手に調理出来る人材がいれば最良だと言う。
「この場合の変わった食材というのはやはり昆虫とかか?」
「それもありますが、現地の野生生物も変わった食材に含むべきでしょうね。ジビエは勿論ワニ・ヘビ・リス・コウモリといった日本国内では食べられてないものも扱えるとなお良いです」
「……1人その条件に当てはまる人材がいるんだが」
カバンから今回の候補となっている人達の資料を入れたファイルを取り出し、そのうちの1つを3人の前に差し出す。
「大阪で昆虫や珍しい動物の肉を出す料理店を営む料理人が候補に残ってる、他の2人がホテルシェフや人気イタリアン店の料理人であることを考えるとかなり異色なんだが……」
「じゃあ会ってみて良さそうならこの人にします?」
納村がそう問うと木栖が俺の顔を見た。
「一般的な大使館料理人の経歴とは違うよな?」
「そこが少し気に掛かってる、大使館料理人となると来賓に出す料理も扱うからな。この資料を見た限り彼にはホテルや高級店での修行経験がない、新大使館は日本のみならず地球の各国との橋渡し的な役割も期待されている。この先そうした国賓クラスの人々をもてなす料理を出せるかがわからない」
「その辺りは本人に聞いてみましょうか」
***
1時間後、最後の面接者としてやって来たのが件の料理人であった。
「はじめましてぇ、飯山満ですー」
関西イントネーションの間伸びした喋り方をするぽっちゃり体型の男性はペコリと小さく頭を下げた。
今回の面接では料理とは別に相性を見ているが、絵描き歌のコックさんのような印象の彼からは悪い気配がない。
「冷蔵庫にあるもん中に使ってええんですよね?」
「はい、足りない食材などあったら申し訳ありませんが創意工夫で埋めていただければ」
珍しい食材や調味料を多め・一般的な食材を少なめに揃えているのは、現地で日本と同じものが手に入らない事を想定してのことで日本人の舌に合うものを作る技術を見たいという意図による。
「日常の食事と来賓に出すお料理を一品ずつ、でしたよね?みなさんアレルギーとかはー……」
「「「「大丈夫です」」」」
全員の声が満場一致で揃うと「わかりましたぁ」と答えてさっそく料理に入る。
カウンターキッチンの向こう側でさっそく食材を切り始めた飯山さんに木栖の質問や納村の茶々が入る。
それらに適切に切り返し時に食器を出させたり野菜の下ごしらえの手伝いまで指示する会話能力の高さは店舗経営によって培われたものだろう。
俺と嘉神はその様子を観察しながらお茶を飲み、時折2人に耳打ちで大使館料理人としてふさわしいかの意見交換を行う。
出された日常の一品は、肉団子と野菜の入ったにゅう麺だった。
「肉団子入りにゅう麺です、お肉はトナカイ肉で野菜も多めに入れておきました」
トナカイ肉と根菜類を具にしたにゅう麺は優しい味付けで、家庭的と言っても良い。
もう一品のご馳走はアクアパッツァだがこれも東京ではあまり食べられない魚や貝を中心に組み立てられ、見た目にも華やかだ。
来賓クラスのおもてなし料理としては少々素朴過ぎるきらいもあるが味はいい。
(この味なら毎日食べてもいいな、少しもてなし料理の修行して貰う必要はあるだろうが)
「……真柴大使、やっぱり飯山さんにしませんか」
嘉神のその一言にうんと頷くと飯山さんが「やった!」と子どものようにガッツポーズをした。




