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「我が主人・グスタフ4世に申し上げます。私との奴隷契約を解除し、金羊国宰相として復帰することお許しいただけませんでしょうか」
ハルトル宰相はまっすぐに主君であるはずのグスタフ4世王にそう言い放つ。
驚愕に固められた眼差しがハルトル宰相をまっすぐに貫いていて、ハルトル宰相はその眼差しに卑屈さも怯えもなじっと向き合っている。
「どういうことだ」
「あの部屋にいる間ずっと考えておりました、あなたを真の孤独から解放するための方法を。
幼少のみぎり、王子の課題として最初に選ぶ奴隷として私を選び傍に置いてくださりました。私を友と呼び、死に別れた母に与えられた名前で私を呼んでくださったあなたに感謝しているのです。
ですが私はあなたのもとにいる限り永遠に奴隷であり、あなたとともに立つことすら許されない」
その言葉でひとつ理解できた。
「想われているな」
民主主義国家を作ろうとしている理由はそこにあったのだ。
以前語っていた『王政によって生まれた孤独に蝕まれた王子』とはこの目の前にいるグスタフ4世であり、彼の孤独を二度とこの世界に生み出さぬように民主主義を作り出そうとしていたのだ。
「だから私のもとを去るというのか」
「去るのではありません。所有物でも主従でもなくただ、あなたの友になりたいのです」
「だからといって契約まで断ち切る必要は……!」
「断ち切るべきです。この契約がある限りあなたは私を死に至らしめることが出来る、あなたの機嫌を損なえば死ぬなどという強迫観念を持ちながら友であるというのはあまりにも歪だと思いませんか」
「そんなものは知らん!お前が私の横にいないなど許さない」
強権的な言葉でありながら寂しさが滲むその言葉に、この王の孤独を感じる。
「王妃もいらっしゃるでしょう」
「どうだっていい」
その言葉に隣にいた王妃がうつむいた。
政略結婚とはいえ公衆の面前でなおざりにされるのは確かに嫌だろう。
「王妃殿下、グスタフ4世王の背縫いを縫われているのはあなたですよね」
その台詞でビクッと彼女の背筋がはねた。
「ランドリーメイドたちが噂していましたよ、まるでプロのような刺繍が気づくと王の衣服の背中に入れられていると。
辺境伯領風の刺繍がグスタフ4世王の衣服に縫われるようになったのははあなたが嫁いで以降の事、他に王宮内にあのような刺繍が出来るものがいるのか王宮内の獣人に調べてもらいましたが、北の辺境伯領出身で刺繍が得意な人が全くいらっしゃらない。では誰が?
そう考えた時気づいたんです、王妃殿下はよく王のクローゼットにいらっしゃっては王の服に合わせたドレス選びをお考えになられますよね?その間にあなたが背縫いをなされていたのではないか、と」
震える声で王妃殿下が「……どこに根拠があるというの」とつぶやいた。
「私が根拠ですよ」
そう口を開いたのはグウズルン情報管理官だった。
「ハルトルの居場所を探しているときに王のクローゼットで王妃殿下が刺繍を縫うところを見ているんです。ただ妙ですよね?王妃殿下、あなた確かお父様に指先が傷つくからと刺繍禁止されてましたよね?なのにあんなに刺繍が上手いとは思いませんでした」
その時俺の脳裏にある発想が浮かんできた。
「ハルトル宰相、王妃は替え玉だったのか?」
その言葉に2人がにっと不敵にほほ笑んだ。
「替え玉であると悟られないために王の衣服に隠れて背縫いを施していたんですよね?」
「……ハルトル、それがどうした」
「北の辺境伯領において背中に刺す刺繍はお守りを意味します、これは王宮にいる北の辺境伯領出身の騎士も言っておりましたので確実です。そのお守りを密かに縫う意味はひとつ、愛しているからに決まってるからでしょう?
それほど健気にあなたを好いている人が今、あなたの横にいるのです。私が傍に居らずとも良いのではありませんか?」
グスタフ4世王はうつむいたままの妻に目を向け、「本当か」と問うた。
彼女はボロボロとこぼした涙を裾で拭うと「命を懸けてお慕い申し上げております」と目を見て告げた。
「我が主人・グスタフ4世王閣下。想う人と想われる人の間に偽りや脅迫や契約など必要ないと、お判りいただけますか」
「そうかもしれないな」
グスタフ4世は少し考えてから宰相に王妃の件を調べるように指示を出すと、ハルトルに向き合った。
「ハルトル、ここを去っても私の友でいてくれるか」
「ええ」




