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コーヒーを手に何とも言えない沈黙が続く中で、再び会議室の扉がノックされた。
そろそろ開始時間のはずだかあと2人来ていない人間がおり、その2人が揃うまでこのなんとも言えない気まずさの中にいなければならないのかと思うときついものがある。
「失礼します、あの、こちらが新大使館に関する会議の会場でよろしいでしょうか?」
20代も終わり頃の神経質な雰囲気ながら茶色く焼けた肌がミスマッチな青年はきょろきょろと会議室を見渡した。
「……ああ。きみが嘉神参事官か」
「はい。この度参事官に任命されました嘉神恭弘と申します、東京は久しぶりだったものですから地下鉄を乗り違えてギリギリになってしまいました」
少しぬるくなったコーヒーを手に取ると座席に腰を下ろし、気持ちを落ち着かせに来る。
それから1分もしないうちにドアが乱雑に開けられ「遅くなりました!」という声が上がる。
コピー用紙の束を手に散切り頭の女性がホワイトボードの前に立つ。服装や化粧など全体的に気を遣っていない雰囲気からは貧乏めの大学生のように見え、30も半ばとは思えない。
「すいません仮眠のつもりが本気寝になっちゃって、本当は1番に来るべきなんですけどね?あっ、新大使館では通訳官として派遣されることになりました納村明野と申します。とりあえずこれが現時点で判明してる異世界語についてまとめたものです。とりあえずこれ見ながら現時点で解ってる文法やらなんやら説明するんでよろしくお願いしますね」
マシンガントークと共に渡されたのは文法テキストと題されたコピー用紙20枚ほどのテキストと、単語集と書かれたコピー用紙15枚ほどの束だ。
「時間がないので細かいこと抜きで文字の講義から始めます」
―2時間後―
……想定外のスパルタぶりに思わずため息が出る。
このあと講義があるのでと去っていった納村から渡された2つのテキストについてまずは覚える必要がある。
「真柴大使」
そう呼んだのは嘉神で思わず「まだ俺は大使に着任してない」と返してしまう。
しかしそんな事を気にするような男ではないようで軽やかに無視して質問を続けてくる。
「現時点で決まってるのが自分を含めてこの4人と聞いてますが、他の人員はどのように決めるんですか?」
「いま候補を探してもらっている、あとは実際に4人で面接して相性がいいと判断した人を招聘する予定だ」
「面接するのはやはり長期で一緒にいるからですか」
「そうだな、年単位の寮生活になる。家族を連れて行くこともないからそれなりに相性がいい相手を選抜しておきたい。予定としては来月の終わりまでには決めておくつもりだが……」
「わかりました」
「木栖、来月頭辺りで予定が開けられる日を教えてくれ」




