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魔動力車に乗り込むと車内には小さいながらもラジオが借りられることに気づいた。
内容は主にニュースで大陸各地の情報を音声で確認することが出来るらしい。
「技術進化の偏り方がえぐいな」
日本語でそんなことをぼやいてみると「確かに」と納村が呟いた。
この数日の無茶な移動によるグロッキーから解放されてようやく本来の元気を取り戻し、運転席のすぐ後ろにある窓際に腰を下ろした。
魔動力車は全席指定なのだが全くばらばらの席に振り分けられており、俺は最後尾の真ん中の席に腰を下ろした。
やがて車が走り出し、ラジオに耳を傾けてみるが車の騒音であまり聞き取れず情報収集には向かないと諦めた。
ならば人と話そうと周囲を見れば右隣には子連れの母親が座っていて、5歳ぐらいの子どもは退屈そうにしている。
(……この親子から聞いてみるか)
そう思い立って俺は一本の紐を取り出してあやとりを始める。
小さい頃母親に教わった程度ではあるが思ったよりも覚えているもので、川につり橋、ほうきに富士山と作ってみると隣にいた子どもの目が輝いているのが見えた。
「やってみる?」「うん!」
簡単にできるあやとりをいくつか教えていると、母親も気づいたようで「すいません」と声をかける。
(かかった)
「いえいえ、少しばかり暇だったものですから。どちらに向かわれるんですか?」
「親戚の葬儀がありまして、王都に帰るんです」
「王都ですか、初めて行くんですが最近はどんな様子ですか?」
「ご即位された新王殿下の話題で持ちきりですよ、過酷な選抜を超えられた優秀さに氷像のようなご尊顔を持ち合わせた方はそう多くないですから」
彼女はそれなりに地位ある女性のようで、一度だけ近くでそのご尊顔を拝した時の事を嬉しそうに語る。
曰く、夜空のような美しい紺色の瞳を持つすらりとした美男子で当時は10代半ばだというのに完成された美しさがあったという。
「過酷な選抜とは?」
「あら、ご存知ない?『王の資格は血統にあらず、その才にあり』って習うでしょうに」
「無学な旅人ですので」
そう告げると彼女は子供を膝に抱いて、この国の王選抜システムについて語った。
「この国では先王閣下の子であることが証明されれば母親の身の上は問われませんの。過去には下級メイドの子が王になることもありましたのよ」
「ほう、どのように選ばれるのですか?」
「王城の王子宮で最高の教師たちの元で教育を受け、そこで当代の王殿下に認められた方が皇太子になられるんです。もし王になれずとも王城の官僚や上級貴族の養子などの道も開けますから。
特にこたびの新王閣下は30人以上のご兄弟の中から皇太子になられたと聞きますし、対立関係にあった北の辺境伯令嬢を娶られて心の広い方だと思いますわ」
聞こえはいいが30人の中からの王座の奪い合い、というのが引っかかる。
古代中国や戦国時代ばりに身内で殺しあっている可能性もありそうだ。
グウズルン情報管理官の『あれはただ自分の大好きな愛犬を連れ戻しに来ただけですよ』という言葉が思い出される。
(まだ王位について日が浅く妻も敵方から貰った、というのを踏まえると本当にそれだけという可能性もあるな)
それだけ信頼できるものが少ないからこそ主従関係で縛ってあるハルトル宰相を取り戻したかったという事だろう。
「見て!」
先程の子どもがさっそく富士山をマスターしたようで自慢げに見せてくる。
母親もすごいわねえと嬉しそうに子供を褒めてくる。
確かこの魔動力車には休憩時間もあるはずだ。
(休憩に入ったらまた別の人に話してみるのも良いな)
情報は多いに越したことはない。ひとつでも宰相閣下奪還に役立つものがあるといいのだが。




