4-11
黄金のトカゲ亭での食事を終えて一服しているとグウズルン情報管理官が戻ってきた。
「魔動力車の席を確保できました、夕方には出るのでそれまでに済ませておきたい事はありますか?」
「今のうちに少し調べておきたいことがあるんですよ」
「調べておきたいこと?」
「この国の南部で湧出している黒油が売れるかを知りたいんですよ」
グウズルン情報管理官が「必要なものは?」と聞いてくる。
「湧出する黒油の現物とそれを日本までいち早く送り、結果を伝える手段ですかね」
「分かりました、手紙の準備をお願いします」
そう言って再びどこかへ行こうとするグウズルン情報官を「あのぅ、」とヘルカ魔術官が引き止める。
「この近くの洗身場ってどこでです?」
「建物を出て左に直進して三番目の角の突き当たりですね、日が沈む前にここに戻ってくださいね」
「助かります」
そう言ってさっそく店を出て行ったヘルカ魔術官を尻目に、グウズルン情報管理官は懐をがさがさと探って鳥の首をひょっこりと覗かせてきた。
「こいつに黒油の小瓶と手紙を持たせますのでサクっと済ませましょう」
まだ眠りこけている鳩を机の上に置くと、迎えに来てくれた爬虫類の男に軽く事情を伝えてくる。
すると彼はこくりと頷いて俺に聞いてくる。
「黒油をご所望とのことですが入れ物はございますか?」
入れ物となるとちょうどいいものはあっただろうかとカバンを漁り、出てきたのは小さいビニール袋だった。
スーパーにある持ち手のない薄い袋なのでごみを入れるのに重宝してカバンに入れておいたものだがこれだと移動中に破けそうだ。
(サンプル収集用のびん類を持ってくるべきだったな)
大使館の業務の一環として現地調査があるのでサンプル収集用の入れ物は大使館にならいくらでもあるのだが、あいにく今回は荷物を最小限にするため持ってきていない。
そういえばと思って出てきたのはし瓶に使っていた250ミリペットボトルだ。衛生面はアレだが許してもらおう。
ボトルに詰めた後ビニール袋に入れて口を結んでおいて欲しいというと「珍しい素材ですねえ」とつぶやきながら奥へと戻っていく。
その間に事情を説明した手紙を準備し、爬虫類の男が指示通りのものを準備して渡してくれる。
懐から出てきた鳥は思っていたよりも大きかった。
見た目は白い鳩なのだが日本の公園で見る鳩よりも大きく、鶏サイズなのだ。
(こんなものをよく懐に入れて走れたな……)
もはや呆れるぐらいであるがこの鶏サイズの鳩でなければ荷物を運ぶのは難しいだろう。
背中にくぼみがありそこに乗せるようにペットボトルと手紙を置き、グウズルン情報官が白い布で覆うように巻いて固定する。
そして近くの窓から鳩を放つと、大きな羽音とともに飛び去って行く。
「早ければ今晩には大使館に届くでしょう」
これで一つの案件が片付いた。
あの黒油が交渉材料になるといいのだがな。
****
夕方、州都・ギーロンの中央部にある魔動力車発着場はずいぶんと混雑していた。
ここからは夜行バスに似たバスでこの国の首都を目指すことになる。
サイズとしては日本のバスよりも少し大きめで、見た目として一番違うのは四輪でなく六輪であるという事だ。
「なんで六輪なんだ?」
「荷物をいっぱい積むから四輪だと車輪がすぐダメになるらしいです」
魔動力車の後ろや下部に隙間なく荷物を詰め込む獣人たちがふと目について、じっと目を凝らすと彼らがずいぶんくたびれているように見える。
それが力仕事の疲労なのか奴隷ゆえなのかは遠くからでは判別がつかない。
特別やせ細っていたり毛並みが悪かったりという印象はないが、時折怒鳴るように叱責される姿が見えるので大事にされているとも思えない。良くも悪くも家畜という事か。
周りの人々も彼らの扱いには興味がないように見える。これが彼らの当たり前なのだ。
(この当たり前を変えていこうとしていたのがあの人だったんだな)
ハルトル宰相のことを思い出し何かが腑に落ちる。
頭で分かっていてもまだ感覚的に理解し切れていないな、とつくづく思い知らされる。
「行きましょうか」
「ああ」




