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昼過ぎ、木栖とともに足を運んできた協力者たちが続々と到着する。
今回の一番のキーマンであるその男は一番最後にやってきてへらりと笑った。
「お疲れ様です、真柴大使殿?」
「お前にそう呼ばれるとゾワッとするからやめろ」
水村青葉は警視庁捜査支援センター開発係の係長であり俺の高校・大学時代を通じてのバイト仲間だった。
ネクタイをほどいて着崩したスーツは会社員に不向きな本人の性質が良く出ていると思う。
へらへらと笑って誤魔化すような態度は癪に障るが、映像分析は門外漢の俺にとってこの問題で最も頼れるのがこいつしかいないのも事実だった。
PCをテレビにつなぐと「じゃあさっそく分析結果を」と切り出してくる。
「まず犯人は最低でも5人、同一人物か否か特定不能なものがあったんで最大7人とした。
特定不能な1人を除いて全員の身長・外見的特徴も分析できた、人相は全員ネックウォーマーと帽子のようなもので顔を隠していたんで特定は難しかったが、顔の骨格や光彩での認証は可能だと思う。1人は歩容での特定も可能だ。
音声も抽出できたが分別するにもこれだけだとどれが誰のかを推測するぐらいしか出来ないんで必要になったら言ってくれ」
今朝渡した映像をここまで分析して貰えるのは思わず「半日かそこらでずいぶんやってくれたな」と声が漏れる。
こいつの事なので警視庁内のシステムを無断拝借した可能性がある。しかし今は目をつぶろう。
「訴訟の証拠として使うのは後日もう一度別人による分析を必要とするだろうがブラフに使うなら十分だな」
「そりゃどーも、紙で出したほうが良いか?」
「後で頼む」
グウズルン情報管理官が「犯人の目元の画像をもう一度出してもらえますか」と不意に切り出した。
水村が言われた通り犯人の目元の画像を大画面に映しているのを見て、海外でもあまり見ないような紫やピンク色の瞳の特異さに気づかされる。
よく見るとまつげや眉毛も水色だったりオレンジだったりする。地毛なんだろうか。
「……4人とも誰かはわかりました、王の煙に紅煙と全員結構な手練れです」
木栖が「知り合いだったのか?」と問えば「ええ」と手短に答える。
すぐに気付けなかったことを悔やむグウズルン情報管理官に「この4人の映像が欲しいと言ったらすぐ用意できるか?」と問う。
「すぐには無理でしょうね、全員変装が上手ですから」
「変装していても骨格や歩容で特定できるんで大丈夫ですけどね」
水村の補足に木栖がグウズルン情報管理官に「骨格は骨の形、歩容は歩き方の事だ」と耳打ちをする。
「それぐらいなら用意できるかもしれませんがどっちにせよ時間はかかりますね」
「まあ本当に刑事事件になったらその時無理やりにでもかき集めますけどね」
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諸々の話し合いが終わったころには外は夕焼け色に染まっていた。
グウズルン情報管理官は一足先に金羊国へ戻ると言うが、その前に俺たちにはしておくべき課題があった。
目的地は銀座。ここからなら歩きでも30分ぐらいで着くしその間に話せばちょうどいい。
「婚姻関係の証明?」
「俺たちがこの件に介入する言い訳にお前との関係を使おうと思ってな、証拠に指輪でも買おうと思ったんだがお前の好みぐらいは気にしたほうが良いと思って」
「変なところを気にするんだな」
「いちおう俺はお前の夫だしな」
そう告げると木栖が何とも言えぬ酸っぱい顔をして俺をにらみつけてくる。
変なことを言ったつもりは無いが木栖の中では引っかかりが……いや、まさかこいつ。
「まさかお前まだ俺の事が好きなのか?」
「さすがにもう吹っ切れてるに決まってるだろう。歴代の男にも言われたことのないセリフに、その、ちょっとグッと来ただけだ」
木栖のときめくポイントがよく分からんがそういう事なら仕方ない。
高校の時はただただこいつに負けたくないという気持ちしかなかったし、接点もそんなになかったのでこういうところを見るのは初めてだった。
「ブランドとか予算はどうする?」
「指輪もピンキリだからな、良いのを買うなら10万程度は欲しいんだがな」
「おい待てそれ2人でだよな?」
「1人でだぞ?昔付き合ってた男にカルティエの指輪を貰って別れた時にやけになって売ったら元値が14万と言われたりしたな。
あんまり安物だと怪しまれるし、俺も自分の分は出すからそれぐらいの奴にしよう」
少しだけこの発案を後悔しながら日暮れの銀座を目指して歩いた。




