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話し合いも進んで午前10時を過ぎ、そろそろ診察も終わっただろうし木栖に容体を電話で確認することにした。
ちなみにスマホは画像データーをコピーの上本人に返してあり、その画像も協力者にメールで送ってある。
「木栖、診断はどうなった?」
『肋骨が2本折れてた、あと背骨にもヒビが入ってたらしくてな。一歩間違えたら神経のほうをやってた。全体2ヶ月ぐらいって話だ』
「全治2ヶ月か」
立件するなら傷害罪だな、と妙に冷静になりながら考えている俺に隣にいた飯島から俺の方を見た。
「スピーカーホンにする」
スピーカーボタンを押して隣にいた飯島の方を見る。
「お疲れ様です、並行世界局の飯島です。容体はいかがですか」
『ギプスはつけてますが特に容体が悪いと言ったことはないです』
「わかりました、今回の経費は全部労災で落とすので領収書お願いします」
『了解です。領収書は午後にでもそちらに持って行きます』
という事は木栖も午後にこちらへ来るのか。指輪の話は夕方以降にしよう、さすがにこれについては俺の独断で全部進める気にはなれん。
グウズルン情報管理官が小さな挙手とともに話をさせろと目で訴えてくるのでそっとスマホを差し向ける。
使い方はさっきのを見ていて理解したのか「グウズルンですが、」と話を切り出した。
「真柴大使と木栖武官の関係性を証明する公的書類は無いんですね?」
『公的な物はないですね、婚姻証明書は降りませんし同性婚の代替として使われる養子縁組なども行っていませんから』
「そこにつけこんでハルトルの代わりに自分の女姉妹を真柴大使と結婚させて姻戚関係を作って影響を持たせる可能性があります」
『国王自身がハルトル宰相と結婚する可能性は?』
「それをやれば国内から反発があるでしょうし教会が口出ししてきます」
姻戚関係による日本と金羊国への内政干渉か、中世ヨーロッパか?
日本人には及びもつかない方法に飯島が「悪辣だな」とつぶやいたが、そういうものだと諦めて欲しい。
「そこについては日本国憲法の婚姻の自由に基づき、双方の同意のない結婚は認められませんよ」
飯島が口をはさむ。あちらの世界でも外交騎士は祖国の法に基づいて行動するというのが常識なのだし、理解はされるだろう。
「それはしょせん日本ではの話です。北の国が姻戚関係があると言えば他の国も認めるでしょう」
『拒否方法は?』
「家長権の発動ですかね」
「それなら俺が家長であるとすればいい」
2つの国の法律に基づいた婚姻の拒否ならそう簡単に向こうも理屈の穴は突けない。まして向こうは日本国憲法を知らない訳だしな。
『それと気になったことがひとつ、ハルトル宰相自身の奴隷契約破棄は出来るのか?』
痛いところを衝かれたというように「う」と小さく声が漏れた。
「……それについてはほぼ無理でしょうね、主従契約証明は燃やせても魔術契約印が消せないので」
「魔術契約印というのは?」
「奴隷として買った後につけられる刺青の一種なんですが、魔術に反応するので奴隷に罰を与えることが出来るしろものです。処罰はもちろん外せるのは主人のみ、その気になれば奴隷自身の命も奪える代物です」
また厄介な代物が出てきたな。
ただの刺青はともかく魔術が絡んでいるとこっちとしても気軽に手を出せない。
「ハルトル宰相自身が持ち主を説得して解除、という可能性は?」
「あの執着ぶりを見ていると難しいでしょうね」
わざわざ犯罪を起こしてまで手に入れようとした相手だ、すぐには説得されてくれないだろう。
グウズルン情報管理官は契約印の解除を最初から諦めているように見えるのはそのためか。
「そこは宰相自身に期待か」
とにかく午後木栖と協力者が来る。
話はまだ続きそうだ。




