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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
26:二人きり冬休み

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323/323

26-4

東京駅の地下道を彷徨い、行きかう雑踏を潜り抜け、ようやく待ち合わせの丸の内南口改札についたのは待ち合わせ時間から30分ほど過ぎた頃だった。


「東京駅と新宿駅はマジで分からん」


「新宿に比べれば東京駅はまだマシな方だと思うけどな」


そんな愚痴をこぼしつつ、ちょっと急いで目的のホームに向かう。


ホームに到着すると接近メロディーが響き、その音がする方向へ目を向けるとロボットのような面構えのサファイアブルーの列車がガタゴトとホームに滑り込んでくる。


鉄道趣味はないいち旅行客の俺でもその鮮やかなブルーには目を惹かれる。


「これ、結構いい奴じゃないのか?」


「初恋叶っての初デートなんだ、多少張り込むのは普通だろ」


「どおりでちょっと高い気がしたわけだよ」


さっき自分の分の往復交通費を聞き出して渡しておいたが、思ったより高かったのはたぶんそのせいなのだろう。


まあ予定を丸投げしたのは俺だから多少高くても文句を言う権利などないのだが。


木栖が連れて来たのは4人掛けソファの個室で、大きな窓に面したふかふかのソファと机がお目見えしてきた。


「張り込みすぎじゃないか?」


「良いんだよ、俺がこうしたかったんだから」


そうこうしてるうちに列車はさっそく伊豆へと走り出していく。


早めの昼食としてこの列車自慢だというラーメンを注文しようと部屋に置いてあったメニュー表を見た後、俺は黙ってメニュー表を裏返した。


「ラーメンとシュウマイと水頼んだだけで2200円はいくら観光地価格でもぼったくり過ぎるわ、富士山パンとミカンソーダでいいや」


正直お腹は空いてるが、俺の金銭感覚染みついた貧乏性がさすがにやめとけと言うのでしょうがない。


「半額出すぞ?」


「いい、ハナから飯代は自腹って約束だろ。俺のために金使いすぎるのは良くない」


確かに俺たちの関係は変わった。けれどだからといって甘え倒すほど俺は腐りきってない。


結局木栖がラーメンをすする横で、俺は抹茶味のパンをむしゃむしゃとかじるのであった。


そうして飯を食ったりダラダラ喋りながら海を見ているうちに列車は熱海駅のホームへ滑り込み、そこから流れるようにタクシーへ乗り込む。




「ここが来宮神社か」




タクシーの運ちゃんに荷物を預け(預け賃代わりに1000円渡した)そのまま神社の敷地へと歩き出す。


2月の平日昼間というタイミングのおかげか神社内は人が少なく、美しく整えられた境内には木々のざわめきと冬の風の匂いだけがある。


本殿へのお参りを済ませると、ふと目についた草花の揺らぎに誘われる。


冬でも青々とした植物たちの小道を通り本殿の脇を抜けていくと、そこには立派な大楠が聳え立っている。


「へえ、こいつは立派だな」


金羊国の大森林は面積こそ広大だが、だいぶ人の手が入っているせいか古木や巨木と呼べるものは少ない。


そのせいかこうした木のすごさを余計に感じてしまうのだろう。


隣に居た木栖が案内板を指さしながら「心に願いを秘めながら一周すると願いが叶うらしいぞ」とささやく。


20年越しの初恋を叶えた木栖が願う事などなさそうなものだが、俺はまた別だ。この男が俺に死ぬまで惚れてて欲しいとでも祈ろうか?


(……いや、こいつが俺に惚れ続けるのは俺の努力の問題か)


また何かあればあの男(五十里桂馬)のような余計な虫が湧きかねない。


そういえばさっき、お守りの頒布所に邪虫除け守というのがあった気がする。木栖に持たせよう。


「大楠回らないんなら少し早いけど次行くか?」


いつの間にか大楠を一周していたらしい木栖が俺に声をかけてきた。


「いや、その前にお守り買っていきたいんだ」


まずはこの男への虫よけを増やしておこう。

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