26-3
翌日、旅行前に叔母のもとへ訪ねることにした。
「お久しぶりです」
「ほんとにね……」
どこか疲れの滲む笑い方をする叔母の様子に、確かにこれでは甥っ子を家に泊める気にはならないと察してしまう。
叔母の孫にあたる男子小学生2人は現在小学校の方にいるため家は静かなものだが、それでも叔母の疲れ具合や家の中が小学生の暴れっぷりを受けて荒れ気味な事からその心労は察するにあまりあると言うものだ。
「莉羅にお見舞い持って行こうかと思うんですけど、市立病院ってお見舞い時間午後だけでしたよね?」
「そうよ」
「じゃあ明日にでも行ってきます」
そこから母の三回忌法要をどうするか?という相談や俺のこの休暇中の予定などを伝えると、叔母が思い出したようにある話を切り出した。
「そういえば手紙には書き忘れてたんだけど、お正月に神戸の真柴さん達が来たのよ」
神戸の真柴というのは俺の父方の親戚にあたる家族のことだ。
俺の祖父の代に起きた親族間トラブルの影響で俺たちとは長らく付き合いが無かったのだが、一昨年の冬に付き合いが復活して以降、年賀状のやり取り程度のお付き合いを続けている。
「神戸からわざわざ?」
「熊谷までラグビー観戦に行くから姉さんのお焼香に立ち寄らせて欲しいって連絡があってね。それでうちに来て家族でお焼香してくれたのよ」
「あー……そう言えば母の葬儀には来られませんでしたもんね」
神戸の真柴家は親戚ではあるが長らく付き合いが途絶していた上に神戸から埼玉は遠すぎるというのもあって、葬式には来ず弔電を貰っていた。(今だに親族間トラブルの影響で俺が真柴の本家筋から嫌われてるという問題もあるが)
「そう。それで春彦くんにって小さい缶入りクッキーいただいたのよね。持ってく?」
「じゃあここで少しだけ食べてくんで、残りは叔母さん達で食べてください」
どうせ諸々の用事を終えたら熱海に行くのだ。クッキーなど食う余裕は無いし、金羊国に持ち帰るのも面倒くさい。
お礼は食べた後に叔母さん経由で伝えれば良いだろう。
「あら、いいの?結構良いクッキーだったわよ?」
「持ち帰るにもかさばりますから」
そう伝えると叔母は「じゃあ今持ってくるわね、コーヒーもう一杯いる?」と嬉しさを噛み殺しながら聞いてきた。
(叔母さんがあんなに嬉しそうってことは、相当美味しいクッキーだったんだな)
とは言え今更キャンセルも出来ないのでせいぜい味わわせてもらうことにしよう。
*****
叔母の家や市役所などで所用を片づけた後、なんとなくタクシーで向かったのは両親の眠る墓地だった。
仏花を手に歩く冬の墓地は乾燥した風の中で抹香と花の香りが混ざり合う。
(久しぶりです、父さん母さん)
持ってきた花を手向けた後、手を合わせながら心の声で両親にそう声をかける。
誰もいない墓地で両親に語ることにしたのは木栖とのことだった。
(長らく俺に惚れてた木栖という男と正式に付き合うことにしました。
顔は男前なのに妙に乙女な思考してて、勉強も運動能力も俺より上の癖してアホみたいに好きで、俺に心から添うてくれる男です。
相手が男なんで俺が末代になりますがアイツの横は居心地が良いんで許してください。
文句があるならこの休み中にでも夢枕に立って、俺に直接言ってください)
当然返事はないが、両親へ報告するのは子どもとして普通の行いだろう。
両親への報告を終えるとふうっとため息が漏れた。
旅行は明日からだ。




