25-9
恋人になってから1週間ほど経ったが、木栖の態度に大きな変化はなかった。
お互い良い歳した大人だし、流石に今回の件で分かりやすく浮かれるようなことは無いらしい。
俺の方も少なくとも大きく態度を変えたりはしていないつもりなので多分パッと見ではわからないだろう。たぶん。
……木栖が俺と付き合いだしたことで浮かれる姿を見たくないと言ったら嘘になるが、そこは言うまい。お互い恋人が出来たからとついつい浮かれて仕事でやらかされても困る。
まあそれは良いのだが、この交際に関してひとつ考えておくべき事がある。
大使館の他メンバーに木栖と俺の正式な交際開始を伝えておくべきか否か?という問題である。
そもそも俺と木栖の交際関係は元々仮のものであり、その前提はかなり初期の段階から大使館内で共有されている。
しかしその前提が変更になるのならば大使館メンバーに伝えておくのが筋というものだが、優先順位の低さとシンプルな小っ恥ずかしさが先に立ってしまうのもあってなんとなく先送りにしていた。
そろそろ暦も12月に差し掛かり、年の瀬の気配が漂い始めてきた頃の事だった。
「そういえば大使、最近木栖さんとなんかありました?」
大使館メンバーでの昼食の最中にそう突っ込んで来たのは納村だった。
「……何かって何だよ」
「いやなんか最近の大使、木栖さんといる時の雰囲気が柔らかくなってきたな~って思いまして」
「言われてみればそんな気がしますね」
「最初の頃と比べたらだいぶ当たりが柔らかくなったかもしれませんねー?」
納村のコメントに他のメンバーも確かにという反応(夏沢だけニヤニヤしてるのが腹立たしいが)を見て、チラッと木栖の方を向くと正直に言っても良いぞというような軽い頷きが返ってきた。
(じゃあこのタイミングで言っておくか)
別に言わなくてもいいのかもしれないがちょうどいい機会なのでこの場で報告しておこう、という結論に至ると俺は水で喉を潤してから口を開いた。
「少し言うのが遅くなったが、俺と木栖は正式に恋人として付き合うことになった」
そう答えると納村は「ようやくですか」と苦笑いをこぼした。
「ようやくって何だよ」
「薄々そうなる気がしてたのでやっとだなーと」
夏沢も「納村さんは前からそう言ってましたよね」と付け足してくるし、他のメンバーも特に抵抗感を見せることはなく「そうなんだ」ぐらいの軽い答えが返ってくる。
元々俺と木栖は偽装夫婦関係だ、そこから偽装の2文字が取れただけに過ぎないという見方も出来るからそこまで驚きがないのだろう。
飯山さんは「おめでとうございます」と祝福の笑みをもって俺と木栖を受け入れ、柊木医師は「どういう関係になっても僕らはそれを受け入れますよ」と優しい言葉をかけてくれる。
深大寺や石薙さんも同様に「おめでとうございます」と俺達を祝福し優しく受け止めてくれる。
「……ありがとう」
少しだけ涙を滲ませながらそう答えたのは木栖だ。
涙目の木栖が仕事着の裾で目元を拭うので、俺はハンカチを渡してやりながら「泣くほどのことか?」と聞いてみる。
「仕方ないだろ、まさかここまですんなり受け入れられるとは思わなかった」
「木栖さんがどんな属性を持ってても僕らにとってはただのいい仕事仲間でしかないんですから、そんな人に恋人が出来たら言うことなんておめでとうございますしか無いでしょう?」
嘉神の言葉に木栖は目頭を赤くしながら「……そうだな」と答えてくれる。
「この先必要な事があれば言ってくださいね」
「ああ、これからもよろしく」
「私にもですよ!」
「夏沢もよろしくな」
そんな周囲の反応を見ていると俺の口の端が緩んでくるのがわかる。
俺たちは我ながら良い仲間に恵まれたようだ。
「嘉神も、何があれば遠慮なく言ってくれ」
「はい」
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