25-8
俺が2個目のパンを半分ほど平らげた頃、木栖はようやく俺の覚悟を脳内処理しきったようだった。
「落ち着いたか」
「ちょっと待たせて悪かったな」
「別にいいよ、お前が納得しないと話が進まんだろ」
という訳で俺たちの話はもう少し現実的なところに戻る。
それは、金羊国を離れた後の事だ。
「で、俺はお前に残りの人生全部やるって言ったわけだが……日本に戻ったらどうする?」
「どうするって言われても、異世界帰りのキャリアプランなんてないだろ」
今の地球上に俺たちが参考に出来るキャリアプランのロールモデルなどない、なので日本に戻った後どうなるか?と聞かれても答えが出せるはずがない。
しかしある程度推測することは出来る。
「それはそうだが、現状俺たちは地球で最もこの世界に明るい人間だ。そういう人間を上が手放しはしない事ぐらいは想像つくから、飛ばされるとしたらどこかぐらいの予測は出来るだろ」
「飛ばされるとしたら、か。
上に対異世界戦争への危惧があるなら防衛研究所で対異世界戦争の研究、なければ本省のどこか、可能性は低いが国連もあるか?金羊国の平和維持を目的とした研究とかをやる気があるならってレベルだが」
「本省勤務ならちょうど良いな。木栖、お前日本に戻った後も国内に残るなら一緒に暮らすか?」
「いっしょにくらす」
「ああ。お互いに生活費出し合って、家事分担して、酒片手にバカな話とかして、そんで互いの最後を看取る男2人の愉快な生活だ。悪い話じゃないだろ」
木栖は俺の言葉に対して割り切れない感じの表情で言葉を切り出す。
「……その愉快な生活には、スキンシップとか行ってきますとただいまのキスとか、その、夜の営みとか、そういうのは含まれるのか?」
夜の営みの部分だけを小声にしての問いかけに、すっかりそこが頭から抜け落ちていたことを思い出す。
男性に性欲を感じている木栖にとっては初恋の男である俺と恋人として一緒に暮らすなら、その辺りの接触もやはり欲しくなるのだろう。
(キス、キスなぁ)
ちょっと考えてみたが、キスならギリいけそうな気がする。
「キスは試すか」
「え」
「夜の営みはちょっと俺のケツの安全が担保されなさそうだからご遠慮願うが、キスならまあ……」
ちょっと下品な話になるが、木栖のブツは自販機並みの身長とがっしりした体格に見合ったご立派なブツである。これはエルダールの島で一緒に風呂入った時や東京で用足しした時などに何度か目撃したので間違いない。
健康診断でやる大腸検査ですらキツイのに内視鏡よりでかいブツを入れて俺の尻が無事であるはずがない。
「夜の営みに関してはまあ追々話をするとして、キスして良いんなら朝昼晩やるぞ俺は」
「フランス人かお前は」
「好きな人の事はいつでも感じてたいだろ。で、していいか?」
ここは広大な大森林の片隅。
近くに人の気配は薄く、ざっと見渡した感じ誰かに見られることも無さそうだ。
「目は閉じてやるから好きなタイミングでどうぞ?」
そうして視覚を閉じると秋の冷たい風に草木のざわめく音、そしてコーヒーの香りが心地好い。
たっぷり30秒ほど逡巡したらしい木栖が俺の両頬に手を当てると顔に吐息がかかり、唇にざらついた熱いものが当てられる。
俺の唇に微かに木栖の舌先が当てられ、俺はそれを受け入れてわずかに口を開けると木栖の舌がゆっくり俺の口元へ侵入してきた。
入ってくる他人の舌先に不快感は無かった。
(こいつどんな顔でキスしてるんだろうな)
そう思って薄く目を開くと木栖はうっそりとした顔で俺を味わっており、今の木栖にこの顔をさせられるのが俺だけだと言うことに興奮を覚えた。
俺の頬に当てられた木栖の手をぺちぺちと叩くとようやく木栖の顔が離れていく。
その顔には隠しきれない獣性が滲み、これを俺だけが自由にできることへの薄暗い歓びが沸き上がる。
「……恋人ってのも悪くないな」
こいつはもう俺のもので、心も身体も俺にのみ捧げられているのだから。




