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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
25:大使館に恋の嵐

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315/323

25-5.5

このお話は夏沢麦子視点の番外編です。

読まなくても成立するエピソードなので本来は番外編として異世界大使館雑録に入れるべきなのですが、出来れば読んでもらいたいなーと思ったので今回はあえて本編に挟んでいます。

金羊国第一都市の河原は肌寒くて静かな夜の中。


真柴さんが木栖さんと先に帰ってしまったせいで景色は酷く寒々しい。


「……ほんとあのロマンチストは死ぬまで治らないんだろうな」


不貞腐れたように五十里さんがつぶやく。


「昔からああだったんですか?」


「そうだね。男女のカップルみたいに死が二人を分かつまで共にいてくれる人を欲しがってた」


「別にゲイだからって人生の伴侶が得られないわけじゃないですか?」


「それは今時の若い子の発想だよ。この歳で独身の男なんかまともな大人としてカウントされないし、男と付き合ってるって言って受け入れられる土壌がまだないんだから、周りに合わせた方が楽に生きられるからね」


五十里さんの言い分が正しいのかはわからない。


でも50代独身男性が異常に見られる、というのは何となくわかる気がする。青森にいた時は50代で独身なんてのはだいたい何かしらの事情を抱えてる人ばかりだったから、たぶん富山もそんな感じなのだろう。


「そういうのってよくある事なんですか?」


「あるある。既婚者じゃないと一人前扱いされないからーとか子供欲しいからーとかよくある事なのにそれも嫌だっていうのは潔癖な気がするんだよなぁ」


「そこは本人の考えの問題ですからね。色んな人と関係持って病気もらうとかトラブルになったら嫌だって思ってるだけかもしれませんし」


「うーん……あれはただの潔癖な気がするなぁ」


五十里さんは納得しがたいように首を傾げる。


実際のところはどうであれ、木栖さんと五十里さんには恋愛観の違いという埋めがたい壁があったから2人は恋人に戻る事もセフレにもなれないという事実だけがそこにある。


「オープンゲイの社長として生きるってことは考えなかったんですか?」


「そもそもオープンゲイだと社長にさせてもらえないよ、俺が社長を継ぐことと結婚はセットなんだから」


「なんでです?」


「うちの会社は中小の製薬業者が集まって出来た寄り合い所帯だ。寄り合い所帯で結束を強めるには目標や利害だけでなく、もっと強固なもので縛る必要がある」


「親戚になっておけば血縁という形で縛れる、と。伊達稙宗(だて・たねむね)みたいですね」


「誰それ?」


「伊達政宗の曽祖父で、東北じゅうに自分の子どもと孫を送り込んだせいであの辺の大名みんな血縁にしちゃった戦国の種馬おじさんです」


私の例えに五十里さんは「せめてそこは『幸いなるオーストリアよ、結婚せよ』がいいかなあ」とつぶやく。


東北の人間なのでいちいちこういう例えが東北のものになってしまうのは諦めて欲しい。世界史には疎いのだ。


「13の家で社長の座を取り合うから現社長の息子ってだけじゃ社長の座は確約されない。有力な家と繋がる事で社長の座を確定させる、と。


……そこまでして社長の椅子が欲しかったんですね」


「男は星の数ほどいるけど次期社長の椅子は一つきりだ」


「木栖さんはそう思わなかったんですけどね」


「だな。寒くなったし、ぼちぼち帰るかな」


そう言ってふらりと踵を返して歩く五十里さんを半歩後ろで警護する。


しばらく歩いてからふいに五十里さんが月を見てつぶやく。




「……俺はみんなが羨まれる人生が欲しかったんだな。


社長の座に裕福な生活、デカい家には利口な嫁とかわいい子供、新築マンションには床上手な愛人。


そんな男の夢を望んだら善泰に逃げられたわけだ」




そう言われるとこの人が木栖さんに逃げられるのも分かる気がする。


あの人はたぶん五十里さんが言うところのみんなに羨まれる生活と言うものに何の価値も感じない。真柴さんが自分を愛してくれさえすれば貧乏暮らしで構わない、そう言い切るのだろう。


(いっそここまで欲望に素直だと逆にすがすがしいな)


「ならもっとデカい魚を探せばいいんじゃないですか?」


傍目から見ている分には面白そうではあるが、周囲の人の苦労を思うとちょっと憐れな気もする。


けれど私は所詮この場限りの他人なので五十里さんをただ黙って大使館へ送り届けるのだった。

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