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「……何も与えないとは言ってないだろう!」
俺の腹から出た声が2人をポカンとさせた。
「確かに俺はこの4年間木栖の気持ちを都合よく使ってきた!俺が木栖を肉体的に満たせるかなんぞも知らん!だけどな、こいつがこれまでの4年間誰とも関係を持たずに俺のそばにいることを選んだのは木栖自身の意思だ!それを俺のせいにしたり、まして木栖の考えを馬鹿にしていい理由にはならないだろうが!」
それはこの4年間たびたび指摘されてきながらも見ないふりしてきた事実だ。それは俺も認めざるを得ない。
けれど今回のように一方的に悪と断じられるのもそれはそれで嫌なのだ。
「俺が木栖を縛りつけたみたいに言うけどな?こいつが勝手に俺に縛られることを選んだだけだ!でも勝手に俺に縛られることを選ぶような可愛げのある馬鹿がこの世に何人いる?
そんな可愛げのある馬鹿をアンタみたいな下半身で人間関係を考えられない人間になんぞくれてやるかよ!」
正直、こう言う言い方をしたら後々に響く気はしている。
けれど今はそれ以上にこの男に腹が立っているのだ。
俺の男を軽んじた事を、ロマンチストである事を馬鹿にしていいとでも言うような言動を。
「木栖。俺が仮に80まで生きるとしたら45年?46年?とにかく、その46年全部お前にやるって言ったらこの野郎との数えきれないセックスより貴重だと思わないか?」
「……くれるのか?」
「ああ、俺はお前の恋人になる。だからお前が他の誰かのものになることは許さん」
今回の件で悟った。俺はこの男を他の誰かになんぞやれないし、俺が今更他の誰かのものになる気もないのだと。
「上から目線だなあ」
「俺の人生設計一から作り直すんだ、それくらい良いだろうが」
俺のその言葉に木栖が「そうか」とつぶやいてから、あの男の方へ視線を移し変える。
「そう言うことで、ごめんな。俺は肉体的快楽より精神が欲しい」
「何、俺当て馬だった?」
そんなセリフにも「勝手に当てられてろ」と嫌味を吐くと「やな奴」と返事が来る。
「まったく、こんな極上ちんぽのイケメンがノンケに盗られるとか最悪以外の何者でもないな」
そのちんこと顔しか評価してないような言い回しが今の木栖から嫌がられてるのでは?という気がしてならない。
「そう言うことなので、こいつは連れて帰ります」
木栖の手を引っ掴んで戻ろうと後ろを振り向くと、物陰から顔を覗かせた嘉神&夏沢コンビと目が合った。
「……何でいるんだよ」
「大使がこんな時間に出ていくのが心配だったので確認のために来たらこうなってしまいまして……」
「以下同文です」
この国では日暮れ以降に出歩く人はあまり多くないので俺が一人で大使館を出て行くのを見て心配して来てくれたのだろう。
夏沢は以下同文と言うが単に面白半分でついてきただけな気がする。
「とりあえず帰ろう、俺と嘉神は木栖の警護で先帰るから夏沢は客人の警護よろしく」
「まあそうなりますよね。分かりました」
そう言って俺たちは夜の街を歩いて帰る。
11月、そろそろこの国も秋から冬へと切り替わろうとする季節の寒さが身にしみる季節だ。
あと半月もしたら本格的な冬になる。
「大使、木栖さん」
「うん?」
「まずは交際開始おめでとうございます」
嘉神の飾り気ない祝いの言葉が何となく優しく響いてくる。
「この話、大使館内で共有しておきますか?」
「あー……一応共有しといたほうがいいか。元々偽装夫婦って設定だったのが変わったってことで」
「だな。でもさっきのやり取りは秘密にして貰えるか?あんまり可愛いところを共有するのももったいないしな」
「可愛いって何だよ」
俺としてもあのやり取りを必要以上に広められるのは気恥ずかしいから詳しくは広めないで欲しいのだが、可愛いって何なんだ。
そんな俺のツッコミをよそに、嘉神はふふっと笑いながら「分かりました」と応じてくれた。




