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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
25:大使館に恋の嵐

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25-1

11月上旬、以前から話としては出ていたアラブ諸国の医療関係者と富山協同製薬役員の金羊国訪問が現実のものになった。


アラブ諸国の医療行政担当者と中東諸国のメディアから派遣された記者、さらに通訳・秘書・近侍などなど揃いも揃って50人という御一行様だ。


カンドゥーラというんだったか?足首まで隠れるほどの純白の衣服の上に派手なマントを身にまとい、浅黒い肌にひげ面の彼らの顔など、アラブ世界に不慣れな日本人の俺にはほとんど同じように見えてしまう。


正直顔と名前を覚えられる気がしない。なんかさっき挨拶されたとき10人ぐらいムハンマドさんが居た気がするしメンバーの半分ぐらい髭面だった。


「大丈夫ですか?」


有料で手伝いを引き受けてくれた河内さんが心配そうに俺を見てくる。


「……誰が誰だか見分けがつかなくて困惑してます」


「日本人から見ると湾岸アラブ系は見分けつきませんよねー、でも一発でわかる方法ありますよ」


はっはっはと軽く笑い飛ばすので「教えてください!」と反射的に問いかける。


「紅白の千鳥格子の布を巻いてるのがサウジ、白い布を被って黒い輪っかで抑えてるだけなのがクウェート、それ以外の色の布被ってるのがUAE、帽子被ってるのがオマーンの担当者ですね」


「なるほど」


「今回はわかりやすいですけど場合によってはマジで識別できないんで結局顔と名前覚えるのが一番だと思いますよ」


「それが出来れば世話ないんですが?」


とりあえず今回河内さんには俺の側に極力いてもらおう。覚えられん。


その後に現れたのは日本の富山協同製薬のご一行様(6名)だ。


「富山協同製薬社長の五十里桂馬(いそり・けいま)と申します」


年頃は50歳前後だろうか、身長は俺とそう変わらない。


仕立てのよいメンズスーツを着こなしながらも、少し長めのグレイヘアやたれ気味の瞳などにどこか女性的な柔らかな雰囲気がある。


(あまり会ったことのないタイプだな)


「マジでいるんだなあ、メス男子」


ボソッと河内さんがつぶやくが今は仕事中なのであとで詳しく聞けばいい。


名刺を交換して軽く握手を交わすと、五十里さんは目を細めてからこう言った。




()()()()()がお世話になってます」




俺の交友関係でその名前が当てはまる奴はただ一人。


木栖善泰、この大使館の駐在武官にして俺の伴侶役としてこの3年間行動を共にしてきた男だけだ。


「あいつのお知り合いですか」


「ええ」


ちょっと失礼、とごみを取るふりをして五十里さんが俺の耳元に顔を寄せると耳元でこう告げた。


「木栖善泰の童貞を受け取った者です」


そう告げた後どこか自慢げに口元をゆがめるのを見てカチンとくる。


(……こいつ、仕事じゃなくて俺に喧嘩売りに来たんじゃないのか?)


しかしここで声を荒げたら負けだ。


何事もないふりをして次の人が挨拶に来たが、俺のはらわたは怒りで煮え始めていた。




*****




ご一行がまず向かったのは金羊国政経宮にいるハルトル宰相のもとだ。


そもそも今回の金羊国訪問は中東エリアの風土病の特効薬として注目されるヘイルム草の大規模輸出のための話し合いが目的だ。


ヘイルム草はこの国では一般的な薬草なのだが、このヘイルム草を輸出するにあたり乱獲による絶滅を防ぐための規制・検疫上の理由による土壌持ち込み対策・買取システムの相談などをしておく必要があったのだ。


とは言っても細かい部分は金羊国の医療政策担当者やソルヴィ森林保護官(飯山さんが森に行くとき同行してくれるゴリラの獣人青年だ)との話し合いになるので、せいぜい挨拶ぐらいの意味合いしかない。


ハルトル宰相を初めて見た中東諸国の担当者ご一行は「おお……!」と小さく感嘆の声を上げた。


東京ではある程度獣人も見慣れて来たがそれ以外の地域ではまだまだ見慣れたものでは無く、テレビやネットで見たことがあっても実際に会うとなればやはり物珍しさが勝るのであろう。


「我々の国の薬草が皆様のためになるのであれば、可能な限り協力いたします」


ハルトル宰相の言葉を通訳を通して聞いた中東諸国担当者は口々に喜びと感謝を表明すると、さっそくヘイルム草の輸出契約の調印式についての話が進んでいく。


調印式は明日の朝、以後5日間にわたり現場担当者クラスと金羊国担当者による打ち合わせとなる。


その間は金羊国で用意した滞在施設を貸し出すが、さすがに50人にもなると全員を泊めることは厳しいので富山協同の関係者は大使館に泊まってもらうことになる。


(……帰ったら木栖にあの社長との関係について聞く必要があるな)

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