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法務省に納村とファンナル隊長の結婚に伴う特定活動ビザの取得について問い合わせた返事が来たのは、10月も末になってからのことだった。
「特定活動ビザの件についての返信が来たぞ」
「あ、やっと来たんだ」
「国内で異種間結婚についての方針が定まるまで判断保留だとさ」
「……は?」
また納村が怒りの睨み顔を見せてきたが、俺に殺意を向けるのはやめろ。その顔は法務省の担当者にしてくれ。
「そもそも金羊国からの声明発表まで異種間結婚についての国内議論が全く起きてない状態だったからな、ここで法務省の独断で許可してもしなくても世論が荒れるって判断なんだろ」
腐っても霞ヶ関で20年ちょい生きてきた人間なのでこの返信を書いた担当者の思考ぐらいは読めるが、その結果納村にブチギレられるのは俺なので納村は俺ではなく担当者の方にキレてくれと思う。
「霞ヶ関の担当者んとこ行って飛び蹴りからの逆エビ固めぶちかましたいんですけど、それ書いたのあの林田って人でいいんですよね?」
「捕まるからやめろ」
暴行罪でお前が捕まると色んな方向に波及するのでやめて欲しい。
……というか飛び蹴りからの逆エビ固めって、飛び蹴りで相手を地面に叩き落としてから逆エビ固めでその足へし折ってやらァ!ってことか?殺意が強すぎないか?と言うかプロレスラーでもやらんだろそんな合わせ技!なんなんだよお前は!
「どんだけ認めたくないんですかね」
「俺に聞かれても知らん、俺に出来るのは問い合わせの内容をファンナル隊長にお伝えするくらいだよ」
「大使の方から報告するんですね?」
「俺はファンナル隊長に申し訳ないですが本国の方針がこれなので~って言うだけであって、近くにたまたま居たハルトル宰相がキレて自国大使館経由で怒りの声明文出しても俺のせいじゃない」
「小賢しいおっさんだ」
「権謀術数渦巻くコンクリートジャングルを生き延びるにはそういう小賢しさも必要なんだよ」
自分たちの結婚を公に認めて貰えない納村への同情心はあれど、法務大臣に投げっぱなしジャーマンをぶちこめるほどの激情は持ち合わせていない。
だから小賢しい援護をしてやるのだ、この4年ともに過ごした同僚の願いを叶えてやって欲しいという祈りを込めて。
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「と言うわけで、日本側でファンナル隊長を納村明野の配偶者もしくはそれに準じた法的扱いを受ける事は現状難しいということになりそうですね」
司法宮にあるファンナル隊長の仕事部屋で俺からの報告を聞くと、それはそれは深いため息を吐いた。
「……日本人と獣人が友人や仕事仲間になることは許されても、獣人が日本人の結婚相手になる事は許されないという訳か」
「そういうことになりますね」
失望めいた感情を覗かせてくるファンナル隊長に「俺の気持ちがどうであっても本国の方針に抗えないのは宮仕えの辛いところです」とぼやいてみる。
寄り添う気があったとしても基本方針がコレである限り俺にできることなどろくに無く、せいぜいその意志を表明するくらいしか無いのだ。
「承知してますよ」
開け放たれた扉からは話を聞いていた政経宮職員達は早速ハルトル宰相や司法宮へと俺たちの話を伝えに行き、本国からの問い合わせの返信をまとめた紙はファンナル隊長に預けておく。あとでゆっくりご確認いただこう。
たぶんまた数日したら金羊国からの怒りの声明文が発表される事であろう。
その声明文が日本における異種間結婚についての論争にどの程度の効力を持つかは分からないが、金羊国が黙っていても日本の方針は変わらないのだから言葉を発するしかない。
(俺に出来るのはせいぜい日本側の方針を一字一句間違える事なく伝えること、そして金羊国の方針をしっかり聞いて日本に届けること)
その声明文の裏に潜む感情すらも、しっかりと。




