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10月に差し掛かり、ハルトル宰相・ビャルキ司法宮長の連名で日本政府宛ての文書が送付された。
「ファンナル隊長の件、やっぱりあの2人としても思うところはあった感じか……」
その内容を要約すると以下のような感じになる。
『法務省による獣人と人間の婚姻不受理は獣人への差別であり、今回の法務省の省令は金羊国としては誠に遺憾である。
本来種族・性別を問わず当人の意思に基づいたものであれば婚姻は認められるべきであり、国内事情の如何に関わらず我が国民と日本人の婚姻も認められる事を切にお願い申し上げる』
獣人と人間の結婚を認める立場の金羊国としては、今回の獣人と人間の結婚を認めない方針に納得が行かなかったと言うことがよく分かる文面である。
(まあ俺に出来ることは何にもないんだけどな)
金羊国側の意向を受けて法務省が省令を撤廃するか?と言われるとかなり怪しいところであるが、この書面に対する返信を書くのは法務省の仕事であって俺の仕事じゃない。
それに納村の結婚の意思は変わりがないので、金羊国での婚姻に必要な書面作りの仕事が消えることはない。俺は淡々と仕事をこなすのみだ。
「大使、ちょっと確認したい事があるんですけど」
ひょっこりと納村がやって来たので「おう」と軽く応じる。
「日本側が私とファンナルとの結婚を認めないってことは、ファンナルは配偶者ビザ取れないですよね?」
「そうなるな。ただ外国で日本人と結婚した外国人だと特定活動ビザが取れるけど、異種間カップルに適用されるかはあの省令には書いてなかったんで法務省に問い合わせてみないことには……って感じだな」
「異種間カップルには特定活動ビザが下りるかが未定ってことですか?」
「少なくとも俺は把握してない」
「めんっっっっど!!!!またあの法務省の担当者に聞かないといけないんですか?」
納村の心からの叫びが俺の部屋に響く。
気持ちはわかるが、俺も面倒なのでこっちに言わないでくれ。
「何でビザ……あ、お前の実家に連れてくのに必要か」
金羊国の人間は東京都内は自由に出入り出来るが都外に連れ出す場合はビザが必要になるが、福井出身の納村は実家にファンナル隊長を連れて行くにはビザの取得が必須になる。
「ですです、そういうことなんで大使館から法務省に問い合わせお願いします」
「特定活動ビザが無理だったら観光ビザか」
「ですかね」
納村がため息混じりに「腑には落ちないですけどね」とぼやく。
「人間の男女ならもっと手っ取り早かったのにな」
「しょうがないでしょうよ、種族が違っててもアイツが良いって思っちゃったんですから」
「どこが良かったんだ?」
「大使にもそっくりそのままお返ししますよ、何で木栖さんを自分の配偶者役に選んだんです?」
「ちょうどいいとこに居たからだな」
雑にそう返した俺に納村はつまんなさそうな顔をした。
ちょうど手近に木栖善泰という俺に惚れてる男がいたからという理由でしかない。
「じゃあ都合さえ良ければ私でも良かった、と」
納村が皮肉交じりにそう聞く。
実際、木栖でなければいけなかった理由は特に無かった。
「じゃあもし木栖さんが伴侶の役を降りるって言ったら、大人しく手放せます?」
その問いかけに思考が止まった。
木栖という伴侶役抜きで仕事を回す姿が思い付かず、そんな自分に驚きもした。
納村がドヤ顔交じりに笑いながら「私の気持ち分かってくれました?」と聞いてくる。
俺は何となく悔しい気がしつつもその問いに同意する訳にもいかず、黙って目を逸らす。
「じゃ、ビザの問い合わせお願いしますね」
何か勝ったような顔で納村は俺の仕事部屋を出て行き、俺は仕事の手を止めて答えの出ない問いを脳内でかき混ぜた。




