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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
24:納村明野の結婚

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24-5

「ああいうのは本当に嫌になるな」


法務省のビルを出た納村は不機嫌そうにそう呟くので、飯島が「でも国としては態度を一貫させないと余計に揉めますからねえ」とフォローを入れる。


「そりゃあ国にとってはそうでしょうけどね?というか外務省側で事前にこの辺の話把握してなかったんですか?」


「省令は法務省内部で決める事ですからね」


不機嫌さマックスの納村と必死で宥めすかしにかかる飯島に対し、ファンナル隊長は考え込むように黙っている。


ファンナル隊長からすると今回の婚姻不受理は日本側の一方的な都合でしかない。納村よりも怒り心頭でもおかしくないのに、ここまで何も言わないのが逆に怖くて声を掛けられない。


「納村、ちょっと早いけど飯食いに行かないか?」


「飯ですか?いいですけどこの辺霞が関って飲食店あります?」


「せっかくだし納村もファンナル隊長も行ったことない場所にしよう」


そう言って連れて来たのは、農水省の地下にある食堂だ。


ここの食堂は安くて旨いと評判で、霞が関一帯から職員が飯を食いに集まる。無論俺も何度か足を運んだことがある。


ずっと不機嫌だった納村もとんかつを乗せたオムライス(ボルガライスというらしい)の前にはその不機嫌も収まっていき、俺としては少しほっとした。


『ファンナル、おろしそばはどう?』


納村が大陸標準語で隣に居たファンナル隊長に問えば『さっぱりしてて美味い』という答えが来る。


『そりゃよかった。話戻るけどさ、さっきの人の話はどうする?』


『……俺が動くことで内政干渉になるのが怖いな』


ファンナル隊長は金羊国における国防・軍備の大部分を担っており、その権力は実質大臣級と言っても良い。まあ金羊国の国防組織はかなり小規模なので大臣級と呼ぶには部下が少なすぎるきらいはあるが。


なのでファンナル隊長が日本の省令についての苦情を出せば内政干渉のそしりを受けかねず、金羊国と日本の外交関係に悪影響を及ぼすことを危惧しているのだ。


『だからもしかするとこの件において俺に出来ることはあまり多くないかもしれないんだ』


『それはしょうがないね。でも宰相閣下に伝える事ぐらいは出来るでしょ?』


『ああ』


『ならまずはそうしよう、私も出来る限りのことはする』


納村とファンナルは国とがっぷり四つで殴り合う覚悟を決めたらしい。


飯島の方を見れば仕方ないという風に苦笑いを零していた。




*****




「お前も日本で同性婚は出来たほうが良いと思うか?」


今回の一件について大使館メンバーへの報告を終えた後でそう木栖に尋ねてみた。


同性婚についての訴訟なら俺よりも詳しいだろうし、単純に木栖の意見を聞いてたかった。


「人生の選択肢を広げるという意味ではあるに越したことは無いだろうな」


「選択肢?」


「今の日本のゲイカップルは市区町村や都道府県のパートナーシップや公的証書といった法的保証が不十分な状態で同棲するしかないからな」


「養子縁組が法的には一番明確なのか?」


「そうだな、でも養子縁組は親子になる事であって夫婦になる事じゃない」


木栖はそう言いつつ「まあ同姓になるという点においては養子縁組も結婚も同じだけどな」とぼやく。




「それに、同性での結婚が認められている場所なら相手が男でも堂々と結婚相手ですって言って連れ回せることはここでの暮らしが証明してる」




ここにいる間は俺の伴侶ということで通すようになって4年、それは確かに感じている事だった。


法的に認められている関係であるという事がいかに関係性の強固な土台になるのか、同性のカップルが普通に視界にいる世界における同性に恋する事のフラットさ、異性の夫婦も同性の夫婦も異種間の夫婦も人を愛していることには変わりないという事。


「お前にとっては日本より金羊国のほうが居心地よかったりするのか?」


「居心地は良いよ、でもお前がいなくちゃ意味がない」


そう言われることで自分の中の自尊心が少しだけ満ちてくる。


けれどカッコつけめいた言い回しがちょっと癇に障ったので「シレっと口説くな」と強めに突っ込んだ。

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