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荒れ狂う納村と不穏さを隠しきれないファンナル隊長を宥めすかしつつ、アポイントの返事を待つ事3日。
ようやくアポイントが取れたのは9月半ばになってからのことだった。
俺は納村とファンナル隊長を連れ、仲介してくれた飯島と赤れんが館で待ち合わせた。
「いつ来ても独特の威圧感があるよな、この建物は……」
「今回の担当者はこん中に居るんですか?」
「あっちの今どきなビルのほうだよ」
納村の問いに法務検察合同庁舎の方を指さすと「へえ」と小さく呟く。
法務省を始めとした日本の司法を担う省庁を集約した合同庁舎第6号館、通称・法務検察合同庁舎。
その中の陽当たりのいい小さな面談室の下座に今回アポを取った相手が待っていた。
「法務省訟務局行政訟務課の林田と申します」
少し濃いめの顔立ちに細い目をした中背の男から名刺を受け取ると、俺はその所属に僅かな引っ掛かりを覚える。
「訟務局?結婚の話なら民事局の管轄じゃ?」
訝しげに相手の顔を見ると飄々とした顔で「順を追って説明しますよ、お席どうぞ」と着席を促された。
俺とファンナル・納村は上座に、飯島はいわゆるお誕生日席に腰を下ろす。
「マサ、そちらの飯島さんから前々からお話を伺ってました」
「知り合いなのか?」
俺が飯島の方を見ると「大学以来の飲み仲間なんだ」と答えてくれる。
「本来でしたら説明の義務もないのですが古い仲間からのたっての依頼でしたから」
その言い回しは本来説明なんぞしなくてもいいのだとでも言うような、納村とファンナル隊長に向けられた嫌味ったらしさがあった。
「林田さん、今回の獣人との結婚を認めないという省令について詳しいご説明をお願い出来ますか?」
前置きはここまでにしてくれと言うように納村が口を開く。
「その前に、皆さんは現在日本政府が抱えてる訴訟の中に同性婚についてのものがあるのをご存知ですか?」
「テレビのニュースでは見ましたよ」
林田さんの言う同性婚の訴訟については俺もテレビで見たことがある。
同性カップルが結婚出来ないのは婚姻の自由を侵害しているので違憲である、という主張のもと何年か前から続いているものである。
「この訴訟の中で日本政府は婚姻の目的を『子を産み育てる男女の法的保護』と定義しており、『"生物学的な自然生殖可能性"で婚姻の範囲が決められている』としています。その主張の一貫性を保持することが最大の目的ですね」
その時、納村の表情が一気に怒りへと傾いた。
日本語が分からないファンナル隊長も納村の態度にただならぬものを感じたような顔をしている。
「つまり獣人と人間のカップルは子どもが作れないから日本政府による法的保護の必要はない、と言うことで?」
「そういうことになりますね」
林田さんの態度は実に冷静で淡々としており、怒りに染まる納村の様子に動じることはない。
俺の方もファンナル隊長にこれまでの話の概要を軽く説明すると不快な表情を浮かべた。
『つまるところ、日本政府の内政上の都合で俺たちの婚姻が承認されないわけか』
『ファンナル隊長からすればそうなりますね』
納村の方は「じゃあ日本政府が敗訴に至れば結婚が認められるのか」と林田さんを問い詰めており、林田さんはやはり淡々と「国が婚姻の目的を変更すればそうなりますね」と答えた。
「林田さん、その同性婚訴訟はどの辺りまで進んでますか?」
「現時点では各地の高等裁判所で控訴審が行われているところです」
「まだ数年は続くわけですか……」
「それに日本政府でお二人の婚姻を認めずとも、金羊国では認められるわけですから別にいいのでは?」
納村は実に不愉快そうな顔をして林田さんを見た。
ファンナル隊長が法的に伴侶として扱われないことによる不便云々というよりも、伴侶として公に認められないことに対する直感的な嫌悪感が納村の顔に滲み出ている。
(……これは、どう解決したもんかな)




