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そんなわけでトンネル工事現場に辿り着くと、獣人作業員たちは皆腰に作業用の道具入れを下げての作業している。
人間よりの獣人や日本から来た作業員たちは長袖を着用し、動物寄りの獣人達もベストのようなものを着用している。
「あれはなんなんでしょうね?」
「作業員向けのひんやりグッツですかね」
そんなことを話しているとふらりと現れたのは同じような長袖を着たクライフ上級魔術官だった。
「どーもどーも、ルリの代わりに来たよ」
「お久しぶりです。その長袖暑くないんですか?」
「いやそれがそうでもないんだよね。これ服の中に空気が通るようになっててさ、ずっと服の中に風が通ってて涼しいよ」
腰元にファンがついており、ファンから吸気された風が背中を通って首を抜けて出ていく。いわゆる空調服と言うやつだ。
「他の人のベストもそんな感じなんですか?」
「いや、あれは毎朝私が凍らせた奴を仕込んだ服だよ。空調服だと抜け毛が顔に降りかかって邪魔なんだとさ」
抜け毛が顔に張り付く姿を想像すると確かにちょっと嫌なのでそれは確かにやめときたいってなるのも分かる。
「ちゃんと暑さ対策してるんですね」
「日本よりはマシとはいえ今年は暑いからね」
そんな話をしつつクライフ上級魔術官の案内でトンネル工事現場を回っていく。
ハルトル宰相は様々な人たちに笑顔で声をかけて励ましや仕事の具合などを聞いている。
彼らからすれば毎日の食事と休みがあり、技術教育を受けられ、体調まで気遣ってくれると言うのは本当にありがたいと言う。
現代日本なら普通の福利厚生だろうが、この世界では斬新なのだろう。これからも持続させて欲しい限りだ。
パワハラなども気になるので少し聞いてみたが、彼らにはパワハラという観念が希薄なようであまりうまく伝わらなかったが、少なくとも理不尽な暴力暴言などは無さそうなことには安心した。そんな事があったら両国の関係にも差し障る。
「工事のほうはどうなってますか?」
「ようやく地盤工事……要は地面を頑丈にしたりする工事なんだけど、それが終わって構造物を作る段階に入った感じかな」
ちらほら見えてくるコンクリの土台部分は駅や列車用施設の基礎部分のようで、この上に建物や線路を組み上げるのだと言う。
完成までの道のりの遠さを感じさせてくるが、異世界と日本を繋ぐ人類史上初の大工事である。ゆっくりでいいので着実に進めてもらいたいところだ。
「暑いしそろそろ事務所の方行こう」
「そうですね、真柴大使も構いませんか?」
「ええ」
工事事務所の方では、工事の進捗管理などと並行して日本人生技術者による現地スタッフの教育も行われている
行っているのは主に鉄道関係の技術者教育で、線路や列車の保守点検・列車運行のための基本技術・駅業務の基本知識の勉強となる。基礎教育レベルの違いなどから日本の鉄道会社が行うよりも長い時間をかけて座学を行い、5年後には日本で実地訓練も行って車掌・運転士業務もこの国の人がある程度行えるようにしたいと言う。
まあ何十年後かには原油の輸送のために北の国まで伸ばす可能性もあるからな。その辺を見据えた教育なのは有り難い。
日本から派遣された人たちとも軽い雑談をしたたころこの土地にはずいぶん馴染んできたようだが、彼らは「同じ時期の日本に比べたらここは遥かにマシ」と笑っているのが印象的だった。
事務所内をぐるりと回り終えた頃、相模さんを見つけた。
「お疲れ様です」
「ハルトル宰相と真柴大使!?ご案内に上がれず申し訳ありません!」
俺たちを見つけて咄嗟に頭を下げた彼女曰く、俺たちが来ると分かっていたのだが急な本社からの呼び出しに逆らえず案内をクライフ上級魔術官に丸投げして本社対応に向かっていたそうだ。
俺がその辺りの話をハルトル宰相にかい摘んで説明すると「それなら仕方ないですよ」と笑って答えた。
それでも相模さんの気持ちは晴れ切らないように見える。
そんな時にふと口を開いたのはクライフ上級魔術官だった。
「ルリ、おやつ食べよう」




