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荒れ狂う深大寺を始業を言い訳に送り返し(そして送り返す途中で転んでひっくり返ってた)たあと、納村は「恋って大変ですよね」とつぶやく。
「なんか他人事みたいなテンションだな」
「他人事ですし」
「でももし深大寺がカウサル女公爵と結婚したらそのための法的な問題解決に追われることになるから、たぶん納村にとっても他人事じゃなくなるぞ」
俺がこの件に介入したのだってそれが理由だ。
異世界人と日本人の結婚についてはまだ法的に明確になってない部分が多くあるので間違いなく俺たちの仕事となって飛んでくる。
「そういやそうですよね。大陸標準語の専門通訳だってまだ数は多くないから間違いなくこっちに来ますよね」
苦笑いと共に呆れながらそう返した納村はふと何かが気になったかのようにこちらへ問うて来る。
「実際結婚する場合って何がハードルになるんですか?」
(そう言えば納村はファンナル隊長と付き合っているんだった)
確か付き合い始めは西の国の侵攻の頃だったはずだからもう3年くらいは経ってるはずだ。あまり深くは聞いてないし本人も仕事仲間相手に惚気る気は無いのか、傍目から見て2人の関係性が悪化した印象はないのでたぶん順調なのだろう。
「いちおう異世界人との結婚に関しては外国人との婚姻のやり方を基準にする事になる、と聞いてる」
納村の交際が発覚した時に飯島にこそっと耳打ちしたお陰か、今回の事案を報告した際に国の方でそういう基本方針が出た。
「じゃあそんなに問題ないんじゃ?」
「そうかもしれないけどな?国際結婚に必要な書類を相手国に作ってもらうためのサポートがいるだろ」
「あー……書式とか手続きが違うから」
「後は子供が生まれた場合や離婚時の対応についての事前協議とかな」
基本方針が出ていたとしても細かいすり合わせは必須であり、それもあって少しげんなりするものを感じてるわけだ。
「それに深大寺の件に関しては相手が双海公国との正式な国交関係が出来てないってのと、貴族階級との結婚だから場合によっては国交が絡んでくるのがネックなんだよな」
一応双海公国と金羊国は内密に関係を作り上げているが、教会からの圧力を気にして明確な国交関係にはない。それは日本と双海公国も同じだ。
正式な関係を持ってない国の国主との婚姻となれば国同士の関係性にも影響するので、俺が出張ってきたと言う部分がある。
「じゃあ一般人ならそこまで影響しない、と」
「現時点で考えるとって但し書きが付くけどな」
その辺は国の基本方針の変更がないことを祈るしかない。
「わかりました、私仕事に戻りますね」
そう言って出て行った納村の背中を見て思う。
「……あいつ、結婚する気か?」
そうなった場合のことを思ったが、それは個人の自由だ。ただ俺が面倒に感じるだけで。
ただ俺が出来る事なら面倒ごとは少なくあれと祈っているだけだ。
*****
今朝の一件で深大寺の結婚の話は大使館メンバー全員の聞き及ぶところとなり、一番に話を振ってきたのは意外なことに嘉神だった。
「深大寺君本当に結婚するんでしょうかね」
「さあな、基本的には本人の自由意思の問題だから俺がどうこう言う話じゃないだろ」
「ただでさえマンパワー不足気味なのに連れていかれるのは痛いですよねえ」
嘉神が気にしているのはそこだった。
本当に深大寺が婿入りするとなればさすがにもう1人出してくれると思うが、人手がなかなか増えない実情を思うとスムーズに人手が増えるのかは怪しい。
「逆に結婚話がうまく行かなかった場合も怖いですけどね」
「あー、そっちもあるか」
カウサル女公爵であれば私情を仕事に持ち込まないとは思うが、国同士の関係が悪化して間に挟まれる金羊国を巻き添えにしてしまう可能性も無くはない。
そこらへんも一応検討したほうが良さそうだ。
「深大寺君自身には結婚して貰った方がこの世界で日本が影響力を持つ足掛かりにはなるんでしょうが、かといって本人の意思を無視はできませんからねえ」
「こっちの世界だと気にならないんだろうけどな」
俺達に出来るのは深大寺の選択を守り、支える準備だけだ。




