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ところで、深大寺は何故カウサル女公爵の恋人について知ってたのだろう。
なんとなく気になって始業前の隙間時間に深大寺を捕まえて俺の仕事部屋で聞いてみることにした。
「なんでって、そりゃ見たからですよ。あの人が男性とイチャイチャしてるのを」
「俺たちがエルダールの島に行ってるときか?」
エルダールの島の医療支援の時、深大寺はヤマンラール商会に1か月ほど預けられていた。
その時は女公爵のお気に入りとして色々なところへ連れまわされていたらしいので、そうした姿を目撃していた可能性は十二分にある。
「しかも恋人複数人いるみたいなんですよね。僕が見たのはひとりだけですけど、聞いた話だとすでに3人いるらしくて」
「3人もか」
深大寺が公爵に複数人の恋人がいた事を知っていたのなら、そりゃ自分への気持ちの本気度を疑いたくもなる。
「しかも聞いてくださいよ、目撃したその人!元婚約者で相手既婚者なんですよ?!元婚約者への情が残ってるのは分かりますけど不倫ですよ?いくら政略結婚当たり前のこの世界でも不倫は良くないと思いません?!」
「落ち着け!」
どうやら俺は深大寺のスイッチを押してしまったようで怒涛の喋りがぶつけられる。
荒れ狂う深大寺の心のうちが言葉となって押し寄せ、発言がヒートアップしていく。
「不倫と愛人隠匿やらかしてる時点であの人への女性としての信頼度ガタ落ちですよ!確かのあの人は男の目から見てもかっこいいしその見た目の割にお茶目で僕の事振り回しつつも奥底に好意がある感じめちゃくちゃ好きですけど!恋人いる状態での婚約申し込みはダメだと思いません?!」
「落ち着け!声がでかい!」
「これが落ち着けるもんですか!あの人は僕をどうしたいんですか?!」
「俺に聞くんじゃない!」
ぎゃあぎゃあと大騒ぎを起こしていると「2人とも声がでかいですよー」と納村が割り込んできた。
それでようやく正気を取り戻した深大寺は急に恥ずかしくなったのか納村を捕まえて「全部忘れてください!」と叫ぶ。
「いやあんなデカい声で話してたら丸聞こえですって」
「うっ」
「まあ気持ちは察しますよ、浮気公認の政略結婚とか不幸の匂いしかしなさそうですもんね」
「そうなんですけどぉ……あの人僕に惚れてるんじゃないか?という気持ちが捨てきれないのがぁ……」
「ロシアのエカチェリーナ二世とかイングランドのエリザベス一世みたいに権力を持つ女性が愛人をたくさん持ってるのはよくある事ですし、むしろ金持ちの入り婿として遊びたい放題出来ると思えばいいじゃないですか」
言いたいことは分かるが深大寺の問題はそこじゃない。
自分に惚れてると思ってた相手に都合よく振り回されてる感が納得いかないのではないか、と言う気がする。
「別に今の仕事辞めたいとか思ってないし……あの人が僕の事しか好きじゃないって言うならそれで済むんですよ……」
「そんなに好きなんですね、カウサル女公爵の事」
「好きですよ!元々ああいうタイプ好みなんで!」
ああいうタイプと言うのはカウサル女公爵のボーイッシュな相貌の事である、正直俺にはピンとこないが他人の好みにケチつけてもしょうがない。
元々好みの相貌でさらに好意を寄せられてるっぽいとなればクラッと来てしまうのも分かる。
「まあ、本気で惚れてるって事と恋人が1人であることは別ですけどね」
「どういうこと?」
「大学の同級生にポリアモリーを公言してる奴がいましてね、そいつは本人と恋人2人と楽しく生活してますけどはた目から見てる限りじゃどちらとも真剣に付き合ってるように見えますよ」
ポリアモリーと言うものについては冬休みにテレビで見たことがあるが、確か複数人で恋人関係を作って交際することだったか。
浮気や不倫と異なりお互い公認で行い、誠実さを重んじるという。
「僕ポリアモリーじゃないしなあ」
「別にそうなれとは言ってないですよ、ただ本気で惚れてるのかを恋人の数で見定めるのは違うんじゃない?って話です」




