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「あなたは僕を唯一無二の男にしてくれますか?」
深大寺の問いは真剣そのものだった。
それが深大寺にとって重要な問いであることは同席する俺達にも察せられた。
「最初からきみは私の代えがたい存在だよ」
「それは僕が異世界人だからでしょう?僕はあなた愛する男として唯一無二にして欲しいんです」
「……恋人たちと別れて欲しい、という事?」
「それもあります」
「も?」
カウサル女公爵の問いかけに深大寺はしばらく悩んでから「うまく話せないので、日本語に切り替えますね」と告げる。たぶん大陸標準語の語彙力が足りなくなったんだろう。
軽くため息を吐くと深大寺が日本語で話し始めた。
『そもそも惚れた男がいるのならばその人と結婚するのが筋でしょうし、惚れた相手の存在を伏せて僕に求婚するというその態度が不誠実ですよ?もし不誠実だという自覚がないのでしたら信頼を重んじるべき商人として日本人の視点だと大いに問題があると思いますよ僕は。まあこちらではよくある事なんでしょうが。それに僕があなたと結婚するという事についてちゃんと考えてくれています?僕があなたの婿になればこれまでの仕事を捨てて家族と遠く離れたところで生きることになるんですよ?僕に家族と仕事を捨てて生きろと言う癖にあなたがこのように不誠実であるなど僕は到底結婚相手に認めたくない。公爵家の都合は理解しますが僕はあなたに都合のいい男ではありませんので、婿に入ってきてほしいと言うのであれば僕はあなたにそれ相応の誠実さを求めます。それは当たり前だと思いませんか?』
深大寺はロクに息継ぎもせずダーッとしゃべり続けると、給仕に来たオーロフからお茶を受け取ってグビグビ飲んだ。
それに対してノンブレスでぶつけられた異世界の言葉に少々呆気にとられたカウサル女公爵がこちらを向き、深大寺の言いたいことを聞かせて欲しいと目で訴えてくる
「要するに”愛人の存在を隠して自分の所へ婿入りしてくれと言うような人は自分を軽んじているから信頼できない、誠実さを見せろ”と言うところですね」
「それもそうか。ちなみにこの場合の誠実さって、お金ではない、よね?」
こっちにもいるんだな……誠意を金額で見せろって奴ら……。
深大寺は「金銭ではありませんよ」と答える。
「具体的に言うならば、僕を得るためにあなたにも何かを捨てて欲しいという事ですよ。僕が婿入りすれば職を捨て故郷の家族も捨てることになるんです、ならばあなたは今付き合ってる人を捨てて僕だけを生涯でただ一人の夫にすると世界のすべてに誓って欲しいんです」
深大寺の要求は重い、重いが言いたいことも分かる気がする。
東京から南の国までは最速でも10日以上はかかる。これまでに比べて気軽に家族に会いに行けなくなり、親兄弟の冠婚葬祭に出る事すら難しくなるだろう。
これまで積み上げてきたキャリアはそう気軽に捨てられるものでは無い。
あとは異世界貴族女性との結婚となると色々と面倒ごとも起きるだろうから、乗り越えるにも大きな動機づけが欲しくなるわけだ。
(だからこそ誠意として自分を生涯唯一の夫にしてみせろってことか)
少々ロマンチックな要求のようではあるが、深大寺にとってはきっとそのが重要なポイントなのだろう。
「……少し考える余裕を貰っても?」
「構いませんよ。このバラの花束もお持ち帰りしていただいていいですか?」
「そうだね」
大きなバラの花束を従者に持たせると「結論が出たらまた来るよ」と告げた。




