22-1
北の国から帰ってきてしばらくの間は比較的穏やかな日々が続いていた6月上旬。
俺が不在の間に溜まっていた仕事を片付けていると、日本にいる飯島から荷物と手紙が来た。
どうやら俺が不在の間に始まった関西万博に視察へ行ったとかで、俺へのお土産を送ってくれたらしい。
「わざわざ帰ってきたタイミングで送ってくれるなんて気遣いすごいですね」
たこ焼き味のじゃがりこを貪り食いながらそんなことを言う納村であるが、手紙後半の内容からすると気遣いではなさそうな気がする。
「万博の金羊国ナショナルデー用に3分以下のビデオメッセージ用意してくれって依頼もセット出来たけどな」
「依頼料前払いって事かー」
「ったく、これでお土産付いてなかったら断るとこだったんだかなぁ」
「良いじゃなくですか、美味いですよこれ」
ご丁寧に全員分用意してきた辺りに謎の戦略性を感じてしまう。
まあ、仕方ない。
「チャチャッとメッセージの下書き作るかぁ。納村、ビデオカメラ後で貸してくれ」
「いいですけどSDカードあります?」
そう言われて荷物を確認すると、手紙の同封された封筒から新品未開封のSDカードが出てきた。
電気屋のシールも張りっぱなしのそれを開封してから納村に見せるとOKが出た。
「じゃあSD入れ替えて来るんで、サクッとメッセージ作っといてください」
―10分後―
ビデオメッセージの原稿を作り上げた俺の前で、納村が慣れた手つきでビデオカメラの三脚を組み立てる。
「手慣れてるな?」
「インタビューとか撮影するときに使うんですよ……よし、セッティング終わりました」
「じゃあさっさと撮影するか」
「はーい、じゃあ行きますね。3,2,1」
ビデオカメラがピコンと撮影開始を知らせる電子音を鳴らすと、俺はカメラレンズにまっすぐ視線を向けた。
「在金羊国日本大使館全権大使の真柴春彦です。
金羊国、および関西万博関係者の皆様。本日のナショナルデー誠におめでとうございます。
我々の世界と金羊国が繋がって5年経ちました。その5年間の間に起こった出来事は枚挙にいとまがなく、しかしその問題を両国力を合わせて乗り越えてまいりました。
この新しく芽吹いた両国のつながりが万博と言う世界の大舞台で花開き、金羊国が新しい未来社会の一員として歓迎されることを日本国民のひとりとして心から歓迎申し上げます。
そして日本、ひいては地球の皆様も姿かたちこそ違えど同じ社会の一員として彼らを迎え入れる第一歩としてこのナショナルデーを心から楽しんで頂ければと思います。
それでは、挨拶を終わります」
カメラに向かって会釈をすると、ピコンと撮影終了の音が鳴った。
「一発撮りでよく出来ますね」
「あとはこれを飯島に渡すだけだな」
「高槻君とっ捕まえて持って行ってもらいましょうか」
*****
ビデオ撮影を終えるとコンコンと扉がノックされたあと、ひょっこり誰かが顔を出した。
「大使、今大丈夫ですか?」
「深大寺か、入ってきても良いぞ」
しかし「大したことではないので」とそのまま話を続ける。
「さっきカウサル女公爵から手紙が来まして、来月金羊国に訪問するのでついで大使館に立ち寄りたいと連絡があったんですが」
カウサル女公爵と深大寺が親密に手紙のやり取りをしているのは大使館内では誰もが知ることだ。
なので深大寺経由でこうした打診がもたらされることも珍しくない。
「お互いタイミングさえ合えばいつ来てくれても構わないと返事しといてくれるか?」
「分かりました」
その答えを告げるとドアも閉めずに去っていった。
「……ドアちゃんと閉めろよ」
深大寺のドジはいつもの事なのでやれやれと言う心地で俺はドアを閉めなおした。




