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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
21:大使館と秘密の子

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273/325

21-3

翌日、午後からヘルペンシュツル宮廷伯の自宅へと招かれることになった。


招待して来たのはマーリット・ヘルペンシュルツ宮廷伯夫人であり、昨日の今日と言うことで呼び出しの中身も大方あの件だろうと言うことの察しはついていた。


「宮廷伯夫人のところには俺1人で行く」


「お前1人で?大丈夫なのか?」


「この間のパーティで絡んできた女性達のこと覚えてるか?」


先日の国王第一子誕生記念パーティーの時のことを口にすると、「あの時か」と思い出してくれる。


「あの時絡んできたご婦人の中にスモーキーピンクの髪のご婦人がいたろ、あの人がヘルペンシュルツ宮廷伯夫人らしい」


宮廷伯家について調べていたときに判明した事実なのだが、それを知った瞬間に俺は木栖をヘルペンシュルツ家に連れて行く気が失せた。


「つまりまた俺が絡まれるのを防ぐってことか?それとも、お前の嫉妬か?」


どこか嬉しそうに木栖が笑いながら聞いてくるので「喧しい」と切り捨てて、留守を任せるとだけ行って出て行った。




****




ヘルペンシュルツ宮廷伯邸宅は北の国の高級住宅街の中にあり、今回の話し合いはその家の応接間で行われる事になった。


大きなカウチにはスモーキーピンクの髪をした恒例の父と20代後半くらいの女性が並んで座っており、俺はそれに相対する形で座る事になった。


老父は神経質そうな雰囲気で娘はどこか気だるげな雰囲気と、親子で醸し出す雰囲気はいくらか違っている。


しかし似通った顔立ちの特徴から親子であることは一目瞭然だった。


「前ヘルペンシュルツ家当主のイエルゲンと申します、こちらは現当主夫人で私の長子のマーリットと申します」


ヘルペンシュルツ宮廷伯家の現当主は婿養子で家庭内の実権は前当主であるイエルゲン氏と妻のマーリット氏が握っているとは聞いていたが、わざわざ本人が仕事で不在の時に俺を呼び出して話したいというあたり信ぴょう性もありそうだ。


「此度の問題についてですが、本当に異世界に夫の子がいるのですか?」


「それにつきましてはご当主からお話を伺ってるかと思いますが、事実です」


懇切丁寧に子どものことを説明すると、目前の父と娘は「ハーッ」と深いため息を漏らした。


「よりによって一滴の血縁も無い異世界人の子に我が家の財産を託す事になるかもしれないとはな」


「ええ。男が産めなかった私にも責任はあるかもしれませんが、よりによってと言う感はありますわね」


親子の懸念はどうやら自分達の遺産が異世界に渡ることであるかのようだ。


「生まれてくる子をどうしたいかについてのご意向をお伺いしてよろしいですか?」


「私としては子どもの相続権を放棄して貰い、マーリットの子に宮廷伯家の当主を継いで貰いたい」


イエルゲン氏はキッパリとそう言い放つと「それは当然ですわね」とマーリット氏が同意する。


「それにこの子が夫の子だというのはそちらの調査ですからね、相手方の騙りにあなた方もだまされているという可能性もあります」


「先ほど申しました通り、お腹の中の子にはこの世界の人間特有の特徴が出ていますから彼女の騙りという可能性は低いかと」


「我々で確認してもないのに信じろと言われても、相続という内容上慎重に判断させて貰いたいのだけれど?」


確かに今回の案件は相続という火種が絡む。


まして正式な外交関係にない国の爵位を相続する可能性が高い子どもを日本政府はどう扱うべきか?という、厄介この上ない問題に繋がる可能性が出てくる。


「承知致しました。では仮に、子どもの爵位相続を母親が望まなかった場合の対応はどうお考えですか?」


「そんなことあるなら良いのだけれどね」


皮肉げな嘲笑をこぼしたマーリット氏は、宮廷伯という名前を欲しがっているという確信を抱いてるように感じた。


「何故そうお考えで?」


「古今東西、権力が欲しくない人間なんていないんじゃいかしら」


「そうだな。人は金と権力に狂う、そのためならば手段を選ばない者も珍しくない」


親子のその言葉はある種の正論である。


俺とて永田町や霞ヶ関の権力闘争を見てきた身であるので、欲するもののためならば手段を選ばずに生きる者は飽きるほど見ている。


「それが今回も当てはまるかはまた別ですがね」


彼女には今日中に我が子の宮廷伯位相続についての意思を問う手紙を本人に送ることになる、無論ヘルペンシュルツ家から歓迎されていないことも明記する事になるだろう。


それを読んで我が子をどうするかを決めるのは他の誰でもない福永やよい本人である。


「本人の意向はいつ分かるのかしら」


「10日程度お待ち頂くことになるかと」


彼女は我が子を地獄に送り込むやもしれない覚悟で爵位を欲するのか、それは誰にも分からない。

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