21-2
へルペンシュルツ宰相補佐官は家族と相談したい、というので福永やよい本人から預かった子どもの妊娠についての書類(妊娠してることが分かる写真類がメインだ)を渡した後解散と相成った。
俺たちの部屋として借りている迎賓館に戻ると先ほど詰め込んだはずの荷物を解きなおす半井さんがいた。
「3人まで帰国が遅れてしまうことになって申し訳ありません」
「これはもうしゃあないですわ。安全上帰国は全員一緒がええというのも上の指示ですし、気ぃ使ったんか謎に文庫本まで届きよるし」
「そうですよ、お気になさらないでください」
「私はまあワーケーションだと思えば特に苦じゃないですし」
安全担保のため5人での帰国を命じられた3人は完全に俺たちの仕事の巻き添えを食った形であり、暇を持て余すことになってしまった。
こちらとしては申しわけない限りだが、3人ともむしろ俺を宥めるようにそう答えてくれた。
「ところで、ちらりと見えてしまったんですが今回のお仕事がアイドルの福永やよいさん絡みと言うのは本当ですか?」
一花さんの質問には「個人情報なので」と軽くごまかす。
黙っておいてくれるなら言っても良いのかもしれないが、この手の秘密は案外あっさり漏れてしまうものなので一応業務上の秘密という事にしておくことにした。
「そうですか、あの福永ジョッキーの娘さんかなって思ったんですが」
「ふくながじょっきー?」
「有名な競馬騎手の方ですよ、以前うちの親戚が何度かお世話になってたのでつい気になりまして」
その会話に半井さんが「ちょっと待って」とくちばしを挟む。
「一花くんって地元どこか聞いてええ?」
「能登の七尾です」
「……もしかしてそのご親戚の人って、カニカマ軍団の馬主さんでお馴染み一花浩一郎さん?」
「僕の大叔父ですね」
「あのカニカマ軍団の馬主さんの親戚かい!」
一花さんと半井さんが盛り上がってるので、木栖か笠置さんに解説して貰えないかと思ったら2人とも理解が追い付かないという顔をしていた。
俺たちの方を見て話が飲み込めない俺たちの様子を察した一花さんが説明を入れてくれる。
「僕の大叔父家族は能登で有名な水産加工の工場を経営しながら競馬の馬主をしてるんですが、自分の馬の名前に会社の主力商品にちなんでカニカマと言う名前を付けてることで有名なんです」
笠置さんがポツリと「馬なのにカニなんだ?」と突っ込んでいたがこのツッコミは華麗にスルーされた、何故馬なのにカニカマなんだよというツッコミはみんな思ってる気がする。
「それで大叔父の持っていた馬にカニカマプリンセスと言うとても活躍した馬がいたんですが、その馬に乗ってくださったのが福永さんなんです。その縁で福永さんと何度かお会いしたことがありましたからつい気になってしまいまして」
とりあえず一花さんが今回の件を気にしていた理由は分かった。
「言っておきますけど、俺は今回の件で問題になった彼女の家族構成までは把握してませんからね?把握してても個人情報なので言えませんけど」
「ですよね、でももし本当に彼女なら随分苦労の多い人生を歩むことになるなとは思いますが」
「……どういうことです?」
「父も兄もジョッキーの競馬一家の落ちこぼれ扱いからアイドルに転身してようやく地位を得たと思ったら今回の妊娠、波瀾万丈と言うほかないでしょう?」
そう言う経緯ならば確かに彼女への同情の余地がある。
父兄と比較されずに生きられる世界で得た居場所を失ってても子を守ろうとする若き母の情愛の物語は俺の琴線に触れるものがあった。
(こうして子どもの父に連絡を取ろうとすると言う事は少なくとも産むつもりなんだろうしな)
誰にも言わずに堕胎という選択を取らなかった彼女が何を思っているのかは俺の知る由もない。
しかし一つ言えることがあるとするならば、生まれてくる子どもにはどんな形であれど幸せに生きる権利があるということだ。それは幼き日の俺がそうであったように。
生まれてくる子どもの幸いの為ならばどこの国で誰の手に育てられるかは問うべきではないだろう。
「彼女も、彼女の子も、幸せであるためにはどうしたらいいんだろうな」




