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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
21:大使館と秘密の子

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271/325

21-1

北の国の王宮の一室、へルペンシュルツ宰相補佐官に振り分けられた執務室には俺・木栖・シェーベイル宰相補佐官と4人だけの空間となっている。


「日本でお会いした彼女の事は覚えていらっしゃいますよね?」


黒々とした艶のある黒髪に淡いピンクの髪飾りとパステルカラーのミニスカワンピースの少女の写真を差し出す。


昨年秋の訪日の時、へルペンシュルツ宰相補佐官と意気投合していたアイドルだ。


「ヤヨイがどうかしたのか?」


その名前を口にしたということはやはり覚えていたらしい。


少女の名前は福永やよい。人気のアイドルグループに所属し、昨年秋の訪日の際の記念パーティに盛り上げ役として出演していた。


「彼女の妊娠が判明しました、あなたが子どもの父親です」


俺の言葉でへルペンシュルツ宰相補佐官の顔から血の気が引いていき、紺碧の髪色と同じぐらい顔色が青くなる。


「それに伴い子どもの国籍や親権についての確定が必要となりましたのでその相談をしてほしいと」


「……ヤヨイの子どもが私の子であるという証拠はあるのか?」


「異世界人の血を引いているかどうかを確定させるために事前に遺伝子検査を行っております、その結果の写しをお借りしていますがご覧になられますか?」


父親との交渉に必要になる可能性が高かったので事前に検査結果の写しを借りている(本人承諾済)


いちおう結果の概要は俺の方で把握しているのでざっくり解説するため検査結果資料を開き、特に重要な部分を指さす。


「そもそも遺伝子とは簡潔に言うならば人体の設計図ですが、地球人とこの世界の人々ではその設計図が違う成分で構成されています。


そして彼女の子どもには異世界人の遺伝子に特有の物質が発見されているので彼女の子どもが異世界人の子どもは確定的であり、彼女自身が親交を深めていた異世界人男性はあなたのみであるのであなたの子でほぼ間違いないだろうというのが日本側の見解です」


検査担当者による細かい説明もついていたが根っから文系の俺にはこれくらいのざっくりとした理解が限界だった。


そもそも検査結果も日本語で書かれており、納村が翻訳をサボったというより自分の知識での翻訳は無理だと判断したことが分かる。


「へルペンシュルツ宰相補佐官と彼女が親密にしている姿は私も目撃しています」


追い討ちをかけたのはシェーベイル宰相補佐官だ。


「無論へルペンシュルツ家にとっては大問題なのは承知しておりますが、だからこそこの子の位置を明瞭にする必要があるかと思います」


「……大問題?」


「主に相続上の問題ですね、ちなみに子どもの性別については分かっていますか?」


「男の子ですね」


検査結果を見てそう答えると2人は視線を合わせると不味いなあと言う顔をした。


どうやら性別で相続上の問題がより大きくなるようであることを察した俺たちは「ひとつお伺いしていいですか?」と切り出す。


「具体的にどのような問題があるかお伺いしても?」


しばらく悩んでからへルペンシュルツ宰相補佐官はひとこと「この国の爵位相続は男子優勢なのです」と答えた。


「紳士録あるか?」


「あるぞ」


隣にいた木栖が紳士録のへルペンシュルツ宮廷伯家のページを開いた状態で差し出してくる。


へルペンシュルツ宮廷伯家の家族構成は義父(引退済)・当主・妻・娘ふたりと記載されている。


「……現在の宮廷伯夫人に男の子が生まれるより先に福永やよいの子どもが生まれたら、この国の宮廷伯の爵位を継ぐのが福永やよいのお腹にいる子どもになるという事ですか?」


「国内法に基づくと嫡出女子より非嫡出子男子が相続上優位になるのでそうなりますね」


最悪の場合、この国の地を踏んだことも無い子どもがへルペンシュルツ宮廷伯家次期当主になってしまう。


国籍とか親権とか言ってる問題じゃない。他国の爵位相続と言う俺の知らない性質のトラブルが転がり込んできたわけだ。


(うわあ、なんだか凄いことになっちゃったぞ)


心の中の井の頭五郎がそんな事をぼやいていたが、全く美味しそうな香りなどしない執務室では意味のない声なのであった。

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