20-14
比重による毒あり・毒なしワインの共存実験を行うことになった。
実験用のワインのうちグラス二杯分を取り出し、片方は砂糖を大量に入れて比重を重くする。もう一杯は比較用にそのままだ。
「で、この激甘ワインを空瓶に戻したあと残りのワインをこの瓶に移し替える訳だ」
「ああ。できるだけ慎重にやらせて貰うよ」
この世界で使われている漏斗を瓶に差し込み、少しづつ慎重にワインを瓶に注ぎ込むだけだ。
この世界で流通するワイン瓶はガラス質の石を溶かし固めて作る関係で瓶そのものの色が濃いため、このやり方なら誰にもバレないだろう。
瓶いっぱいにワインを注いだ後、薄い木片と蝋で蓋をしなおすと完成になる。
「で、問題はこの状態で毒ありと毒なしが混ざらないで運べるか?なんだよな」
「そうなんだよな」
配膳中などに毒ありと毒なしが混ざった状態で提供されてしまえば実験は失敗となる。
「半井さん、想定される配膳中の動きをお願いしていいですか?」
「ほな、させて貰いますわ」
そう言って実験用に再現された瓶を持って部屋を動き回った後、目の前でワインの瓶が開封されてそれぞれの前に配膳される。
「ほな、どうぞ」
そうして差し出されたワインと、比較用に残してあったワインを飲み比べれば答えはすぐに出てきた。
「……味が変わってない」
「あれだけ動いてても変わらないものですね」
「ワインをかなりギリギリまで入れて蓋してましたから、そもそも混ざる余裕がなかったんやないですかね?」
「そうか、グラス一杯分追加してるからそれだけ瓶の中の余裕がなくなって混ざる空間が無くなるのか」
つまり、この木栖による案が正解に近そうだ。
「ちなみにもう一つ案があったよな?」
「警視庁の水村さんがワインの瓶そのものに細工がされてたって案もありますね、これに関しては当時のワイン瓶が見つけられないので証明は不可能なんですが」
あのパーティの時はかなりの数の人がワインを飲んでおり、俺たちの飲んでいたワインの瓶がどれなのかを特定するのは不可能だ。そのため瓶自体に細工されていたことを証明することはできない。
「でも、これも比較するための元のワインがないと証明出来ないですよね?」
同じ銘柄のワインは輸入品の高級ワインで俺たちは入手出来ていない、なのでこの方法を使ったことを証明する方法が無い。
一花さんの指摘で俺はふとあることを思い出した。
パーティの時、俺はワインを口の端に垂らしてしまいハンカチで拭っている。
(……あの時のハンカチに残ったワインと男爵の飲み残しの糖度を比べれば、証明出来るんじゃないか?)
そういえばあの時のハンカチ、どこやったっけ?
「ちょっと確認してくる」
「何を?!」
すぐさま部屋に戻り、モーニングコートを取り出すとポケットからあの時のワインの染みがついたハンカチが出てくる。
(このワインのシミもう絶対に落ちないな……)
モーニングコートに比べれば安いものだがそれなりに高級なハンカチだったのでちょっと勿体ない気がするが、今優先すべきはそこじゃない。
ワインシミのついたハンカチと検査依頼の手紙を日本へ郵送し、木栖のアイディアが答えであることを祈った。
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検査結果はすぐに来た。
「木栖の案であってたみたいだな」
男爵の飲み残しと俺のハンカチ残っていたワインの成分を比較し、男爵のワインにだけ糖分を混ぜていることが確認出来た。
「……あのワインを用意したのは教会ということも踏まえれば、やはり教会側がやったんだな」
「だろうな」
木栖が小さくため息を漏らしながら「亡くなったセナトロフ男爵には申し訳ないな」とつぶやく。
そもそも男爵は生き延びるために俺たちに原油を売ると決め、その結果としてこのような事態に巻き込まれたのであるから俺たちからすれば申し訳ないのは事実だ。
「信仰を理由に手を出してきたのは向こうだ」
俺たちに出来るのは真実を明らかにすること。
そして、加害者側に出来る限りの賠償を求めることだけだろう。




