20-13
これまで判明したことをマークス氏に説明すると「そんなことがありうるんですか?」と問うてくる。
「同じ瓶から毒入りワインと毒なしワインが出てくるなんて」
「それについてはこれから実験する予定です、ただひとつ言えるのは少なくとも今回の男爵の死に我々日本国関係者が関わってる可能性は低いという事くらいです」
この世界にしか存在しない化合物で死んでいる以上、我々日本側の人間が持ち込んだものが原因ではないということは確定している。
「日本側の主張としてそうご報告させて頂きます」
「それとひとつお伺いしたいのですが、あの時のワインを用意したのは王家ではないそうですね?」
「ええ、大司教殿下による祝福の祝詞がかけられたものを従者の方がお配りになっていたはずです。
……まさか、教会の方々をお疑いですか?」
神に仕える者が殺人などあり得ないという感情を見せつけてくるが、パーティ前に遠回しに喧嘩を売られた俺としてはむしろ納得の結論である。
「教会にとって男爵は金のために異なる信仰を持つ我々におもねる人間ですからね、華やいだ場所での見せしめとするならばちょうどいいでしょう?」
「確かにそうでしょうが……」
マークス氏はどこか腑に落ちないような顔だ。
宗教由来のテロなどをテレビなどで飽きるほど見聞きしてきた俺たちと異なり、宗教者による殺人というものに些か納得がいきにくいのだろう。
「自らの宗教的思想と相反するものに対する殺人を正当化する人間は我々の世界には度々見られますから」
「……物騒な宗教者がいたものですね」
エルダールを大陸から追い出し獣人を隷属化する彼らも俺達からすれば同じ穴のムジナなのだが、今ここでその話を掘り下げるべきなのか。
そんなことを話していると、笠置さんがバタバタ足音を立てて駆け寄ってくる。
「真柴大使、検証の準備が整いましたよ!」
「よろしければ同席願えませんか?」
俺のその依頼にマークス氏は小さくうなづいた。
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「さて、今回の議題は『同じ瓶から毒入りと毒無しワインを出す方法』です。
現場の状況から可能性のあるものをいくつか考案して必要であれば実験し、それがあの場所でも可能か?を検証してみます。
実験を仕切るのは笠置さんである。
出てきたのはいくつかの案をまとめた紙とその実証のために準備された動画の数々だ。
「ただあのワインはかなり高価で同じものは用意できなかったから今回は安価なワインでの実証実験になってしまうんだが、良いだろうか?」
木栖が申し訳なさそうに全員に確認を取ると「それは仕方ない」ということで意見がまとまった。
「ほな、まずは僕の案から。
僕の案としてはワインの中に毒を閉じ込めた氷を入れる案やね。この方法やったら溶けるタイミングを見計らえばええし、あの時のワインは赤ワインやったから味が多少薄まっても気づかれにくいんや無いかなと」
実験用に用意された氷は中に毒に見立てた赤い粉末が入っており、これが溶けたら毒入りワインと毒なしワインが作れるのでは?と言うことらしい。
「それだと運ぶ時に氷と瓶がぶつかって音がしません?」
「パーティの間はほとんど音楽が流れとったし、気付かれないと思うねんけどなぁ」
実証のためにワイン瓶の中に小さい氷を入れるとカラカラと音がするが、あまり大きな音ではない。
「タイミングの見計らい方が難しくないですか?」
「どういう事?」
「小さな氷でも解けるにはそれなりの時間がかかりますし、その日の天気やワイン自体の温度で溶け方が変わってしまうので溶け切る前にワインが空になって仕舞えば氷を出してまた別の瓶に入れ直す必要がでてきますよね?そんなことしてたら怪しまれませんか?」
一花さんから確認して欲しいと視線が飛ぶので、俺がかいつまんでマークス氏に説明してみると『もしそんなことをしてる人がいたら不審がられているはずだが、そんな話は聞いていない』と答えが来る。
「氷案は無さそうだな」
半井さんの案にバツを入れると、次は木栖の案だ。
「木栖は比重を使う案か」
「ああ。毒入りワインに砂糖を足して比重を重くし、瓶から一番最後に出てきたものだけが毒入りのワインとなるようにする案だな」
「その方法だとワインの味が変わってしまうよな?」
「同じワインが手に入らなかったから、加糖した事を証明出来ないのがネックなんだよな」
これについてはあのパーティでの飲みさしワインなどが残っていれば良いのだが、残念ながら残っていないのがネックだ。
「甘い酒が好まれるこの国なら砂糖を足したものを出しててもおかしくはないんだが……」
「あの、運んでる時の振動で混ざり合ってしまう可能性はありませんか?」
比重で重くすることはできるが、完璧に分けることは出来ないことを考えるとあり得ない話ではない。
「実験してみるか」




