20-12
日本に送った鑑定品の結果は5日ほどで届いた。
全員でその資料にパラパラと目を通すと、俺の口から小さくため息が漏れた。
「飲んでいたワインから致死量のテトロドトキシンの同族体(似たような性質の化合物)が検出、遺体サンプルから病気の所見は無し」
「この資料からの判断では毒殺の可能性が高い、っていうのが専門家の結論ですね」
「警察と医科大の検査なら信ぴょう性は高そうですね……」
血液・唾液・口腔粘膜・大便・尿の検査結果についての記述に目を通した木栖がそう呟く。
「ところで、遺体から採取したサンプルの種類多くないか?」
「笠置さんがもしかしたらって言って手袋持って大便サンプルと尿のサンプル取ってた」
「覚悟決まりすぎてないかあの人……」
俺が遺族から恨み言を吐かれていた横で、男爵の指から血液を採取し口腔内をふき取り尿の検査サンプルを採取している彼女のメンタルは鉄壁だった。
ちなみにその間木栖は半井さん一花さんと今回の事態についての報告書制作や地球の関係各所への連絡に努めていたのでサボってはいない。
「そりゃあ国に被せられた汚名は回りまわって私達の汚名になりますからね」
きっぱり言い切った笠置さんの腹の括り方には感服するしかない。
「俺が親族の話を聞いた限りだと男爵は持病はなく、薬の服用歴もない。パーティーの前に体調を崩したとも聞いてないし、この検査結果も踏まえてここでは病死の可能性は低いと結論付けてもいいか?」
全員の意見が一致したところで、半井さんがこう切り出す。
「テトロドトキシンってふぐ毒やけど、そもそもこの世界にふぐっておるんやろか?」
「どうなんでしょうね。金羊国も北の国の王都も内陸ですから海の魚の流通量が少ないんですよね」
流通技術の問題でこの辺りでは海の魚があまり流通していないので調べるのは難しい。
海の魚の図鑑でも入手出来ればいいのだが、まだこの世界では本が高いので購入するにも予算が必要だ。
「ほんなら僕らがこの世界に持ち込んだ毒物ではない事も証明せないかんかな?」
「今回検出されたものは地球上で存在が確認されてないものなので、地球から持ち込んだ毒物ではない証明にはなるはずですよ」
テトロドトキシンといってもいくつかの同族体があり、今回見つかったのは現時点では地球上で見つかっていないものらしいので少なくとも自分たちが事前に用意したものではない事の証明にはなる。
「となれば後は僕らがワインに混ぜて飲ませたわけではない、という事を証明する必要があるんですね?」
一花さんがそう聞くと「半井さん、」と声をかけた。
「眼鏡の映像を使いましょう」「ですね」
そうして思い出したように眼鏡を外すと、つるが取れてUSB端子が出てきた。
(あのメガネ隠しカメラ付きだったのかよ)
この映像があればあの場にいた人々の動きは大体わかるはずだからいいのだが、しれっとなんてもんを出してくるんだか。
「すいませんね、あっちのパーティの資料映像取って来いって頼まれてましてん。普通のカメラやと悪目立ちしそうやったから隠しカメラ仕込んでたんですわ」
笠置さんがパソコンを持ってきたので映像を再生してみる。
パーティーの様子が音声付きで鮮明に記録されているお陰で、少なくとも俺たちがどこにいるかが一通り分かる形になる。
プレゼント贈呈の場面を飛ばして早送りで確認してみると、俺と男爵夫妻を含め訪日の際に一緒にいた貴族たちが立ち話しているシーンが写る。
「あ、同じ瓶から出たワイン飲んではるわ」
城の従者からワインを貰った俺たちは乾杯をしてからワインを一口飲んだ後、俺はいったん中座してカメラの方に向かってきた。
「ということは、俺も毒入りワインを飲んでいた可能性が?」
「ええ。せやけどこの時一緒に呑んではったのは複数人、大使も他の人らも体調崩しとらんという事を踏まえると毒入りワインを呑んだんはひとりだけ」
咄嗟に鑑定結果の資料に手を伸ばし、毒物の付着場所を確認する。
「……割れたワイングラスに毒物の形跡はなし」
同じ瓶から出された同じワインを呑みながら1人だけが毒殺された。
その状況の不可解さに俺の背筋がぞわりと粟だっていた。




