20-9
午前11時前、パーティの始まりを告げる祝砲が打ち上げられる。
祝砲と共に色とりどりの花びらが降ってくるのもまたお祝い事らしく、なんともめでたい空気が広がってくる。
主役となる赤ん坊は繊細な刺繍の施されたおくるみの中で眠っており、母譲りの金色の柔らかい髪の毛がふわふわと風になびいている。
「新しい子の名前はドグラスとする」
国王夫妻による子どものお披露目と教会から呼ばれた大司教による祝福の儀式が終われば、次は各貴族による記念品贈呈の式典である。
一番バッターとなった西の国の外交騎士は自信満々に国王の御前に立つと、自分たちが持ってきた風車やベッドメリーのような魔導玩具を自信満々に披露してきた。
「国王の長子のお披露目よりこっちの方がみんな気合入ってるな」
「聞いた話だと、この場は貴族や各国特使にとって自分たちの産品のPRの場でもあるらしい」
「それでか」
この魔導玩具は魔術でエネルギーを送ることでくるくると回るように作られており、赤ん坊のうちから魔術を使う事で魔力量を増やし魔術が上手になる効果があるとか。
周りの貴族たちも子どもの魔術の発達に良いという玩具に興味津々なようで、この系統のものには需要があるのだろうと察せられた。
他の国の特使たちからも赤ん坊のための道具がお祝いとして贈呈されていく。
「日本国外交特使ご一行様より、贈呈品のご紹介です」
俺たち5人はそのタイミングで国王の前に立ち軽く会釈をする。
主に話すのは俺と木栖であるが、3人も一応ついて来てもらうことにしている。
「ご無沙汰しております」
「そうだな、今回は何を持ってきた?」
「今回はいくつかご用意させていただきました。まずはこちら、赤ん坊のためのストロー付きマグです」
今回取り出したのは2種類のストロー付きマグで、プラスチック製のと金属性のデザイン違いのものを2個づつと取り換え用部品のセットとした。
日本政府からのプレゼントは在日金羊国大使館のアドバイスを基に子持ち官僚5名による話し合いで決まった実用性重視のチョイスとなる。
「こちらのカップはどちら軽量で壊れにくい素材を使っていることで、乱暴に扱われても壊れず長持ちいたします。
また子どもでも持ちやすい形状のハンドルと柔らかいストローのお陰で小さな赤ん坊でもひとりで飲むことが出来る上に、金属製の方は保温保冷機能がついておりますのでちょうどいい温度が長持ちするという利便性の高い逸品です」
プレゼント箱からマグを取り出すと従僕の一人が取り出して強度や安全性の確認をすると、国王もまた興味深そうにのぞき込んだり透かしこんだりしている。
「このようなものは初めて見たが使い勝手は良さそうだな」
「御子様の成長に役立つと思われるものを皆が知恵を振り絞って選びましたので。
そしてもうひとつ、我が国の天皇陛下からの贈り物がございます」
桐箱から取り出したのは白と紅色の2種類の反物である。
こちらの世界ではお祝い事のプレゼントに新品の布は定番だが、今回はちょっと気合の入ったものを選んでいる。
「シルクと呼ばれる極上の反物です。肌触りがよく美しい艶を持ち、身体に良く馴染む極上の素材です」
「こんな美しい生地があるだなんて……」
一目見てすぐにこの布がこの世界に存在しない生地だと先に気づいたのは王妃の方だった。
現国王の婚約者に成りすます前はお針子だったという話である、布のについては相当量の知識があるのだろう。
この世界に似たものが存在しない美しい艶と肌触りを持った布に王妃の目は輝きを見せており、国王も「確かに初めて見る生地だな」としげしげと見つめている。
「どのように作られた繊維なんだ?」
「申し訳ありません、我々も詳しくは存じ上げておりませんで」
知らんぷりを決め込んで軽く詫びを入れると「そうか」と言う言葉と共に従者の手に渡った。
(これで国宝級のシロモノだと勘違いしてくれればいいんだけどな)
無論シルク自体は皇室からの贈答品に相応しい国産の最高級品である。
しかし虫の繭から取った糸だと言うと気味悪がられるリスクがあったので、こうして誤魔化すことは事前に決めていた。
「最後に我が国の皇室と首相からのお祝いの手紙を預かっております、翻訳文もお付けいたしますので後日ごゆっくり御目通しいただければ」
最後に美しい春色の和紙に包まれた手紙を取り出す。
この手紙も当然国産高級手漉き和紙に直筆で認められた代物である。
「祝いの品計二点と祝い状、心して受け取った」
その言葉ののち軽く頭を下げてその場を去ったあと、俺たちはひと段落した心地で目立たない程度に小さく笑いあった。




