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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
20:全権大使は名探偵じゃない

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20-8

4月に差し掛かった北の国は春の陽気を迎え、王都の空気もどこか華やいだものになる。


国王第一子の誕生パーティー当日の朝は爽やかな晴天に包まれていた。


人生初のモーニングコートに身を包んだ俺と木栖は互いに服装を見あいながら「なんか見慣れないな」と苦笑いを零す。


「グレーのモーニングに赤のアスコットタイとカフス、華やかでええ雰囲気ですねえ」


「よくお似合いです」


宮内庁から来てくれた二人も同じようなモーニングコートだが、黒いモーニングコートに落ち着いた青のネクタイにカフスという事で俺のものよりシックな印象だ。


「……俺たちはあまり詳しくないのでお店の人に選んで貰ったんですけどね」


大使館着任の際に色々使う機会があるからと燕尾服と一緒に購入したモーニングコートだが、俺自身はこういったものに疎い事もあり華やかに見えるものを見繕って貰ってひと揃い購入した。


ちなみに木栖も同じようなノリで購入したらしいが、カフスとネクタイだけ俺のものに似た色味のものを追加で購入しなおしてる。


「お待たせしてすいません」


「笠置さんは五つ紋の色留袖ですか」


「うちの祖母が今回の派遣の話を聞いて『日本の代表として絶対に着物着ていきなさい』って色留袖を送ってきまして……」


笠置さんの着物は淡い空色の地に百合やバラなどの花々があしらわれた和洋折衷なデザインで、礼装用カバンや草履も金色でパーティに埋もれない華やかさがある。


異世界で着物は目立つだろうが笠置さんによく似合っており、おばあさんが送ってきたという言葉にも納得感がある。


「よくお似合いだと思います」「ありがとうございます」


一花さんに褒められて気恥ずかしさに満ちた顔でそう答える笠置さんはちょっといい雰囲気に見える。


「ほな、行きましょか」




*****




国王の第一子誕生パーティ会場は受付と会場が分かれており、先に受付に顔を出す必要がある。


外国特使扱いである俺たちはゆっくり目の入場となるがそれでもまだまだそれなりの人数がいる。


受付に招待状を渡すと俺たちの顔を見てから「日本国全権大使及び日本国天皇陛下特使ご一行様ですね」と声を上げた。


その時隣にいた初老の男性が俺の方を向くとまるでゲテモノを見つけたような顔をした。


(白の司祭服に教会の印がついたロザリオのような首飾り、教会関係者か)


ただの司教・司祭であればわざわざ王宮のイベントには呼ばれないだろうから、恐らくこの王都の教会で一番偉いとかそういうレベルだろう。


「皆様が異世界の方々ですな?」


「ええ。日本国全権大使、こちらで言う外交騎士に当たります真柴春彦と申します」


「わたくしはこの国の国家大司教、国家全土の教会を取りまとめる役職を与えられたアロイス・ヴィンターニッツでございます」


白髪に青い瞳の初老の御仁は自らをそう名乗った。


以前会った教会騎士団の騎士団長に比べれば声色は柔らかく穏やかで折り目正しいというか、ぱっと見攻撃性が低い印象を受ける。


「噂は色々と耳にしております、此度は異世界の流儀をしかと御見せ頂きましょうかな」


……前言撤回、喧嘩売られてるなこれ。


要するにこの大司教は『どうせこの世界の礼儀作法なんか知らないんだろ、自分らのやり方押し付ける事しか能のない異世界人どもが』って言ってるのだ。その証拠に目つきに皮肉が宿ってる。


「私たちの国には郷に入れば郷に従えと言う言葉がございます、付け焼刃ではありますがこちらの作法と流儀で対応しますよ」


だてに俺らも4年この地に暮らしてない。俺と木栖はその辺の礼儀は弁えてるし、宮内庁の2人も俺たちの調査資料を基にふるまいは叩きこんである。


本当に付け焼刃なのは笠置さんぐらいだろう、この世界マナーって男女差あるから笠置さんだけ最低限しか教える余裕なくて練習不足なんだよな……。


「そうでございますか、異世界の方々は常に自国の流儀で生きてると聞いておりました故」


「日本国としてはすべての人民の自由と平等さえ守られていればどのような流儀も受け入れる、と決められていますので」


日本国に限らず地球全体の共通認識としてこの世界で絶対的に許しがたいのは奴隷制による強制労働だけだ。


たぶん教会側の人からすれば獣人奴隷の労働規制を異世界人からの押し付けととらえてるのだろう。


「人民の自由と平等ですか、随分と人民の範囲が広いのですね」


「言葉によって分かり合えるのならばどのような姿かたちであろうとも我々にとっては人ですよ」


そんな話をしていると白い服に身を包んだ桜色の髪の少年が「大司教閣下、」と声をかけた。


身なりや雰囲気からすると従者というか小間使いの少年と言ったところだろうか。


どうやらこの話はここで終わりらしい。


「では、またあとで」

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