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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
20:全権大使は名探偵じゃない

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20-5

王家のパーティーの前に、北の国の貴族たちとティーパーティを開く事になった。


国内貴族とのツラ通しと労働時間制限と日本との国交の有益性の証明を手早く済ませるにはそれが一番いいと言う話になったのである。


「まさか手伝いに駆り出されるとは思いませんでした」


一花さんがボソッとそんな言葉を漏らす。


「すいません、とにかく人手が足りないもので」


俺としては本当にそうとしか言えないのが困りものだ。


日本から手土産に持ち込んだお菓子や紅茶を使うが、さすがに食器類は持ち込んでいなかったので迎賓館にあるものを借りて行う事になる。しかし迎賓館に勤める人たちには本来の自分の仕事があり、それを邪魔するわけにもいかないので可能な限り自分たちでやらざるを得ないのだ。


食卓は白のテーブルクロスに華やかな和柄の端切れを使ったナプキンやテーブルランナーで華やかさを演出し、季節の花を模した折り紙を様々に配置することで季節感を出してくる。


「我ながら有り合わせにしては上手く出来た気ぃしますわ」


「本当に助かりました」


この辺の経験があまりない俺の代わりにセッティングを考えてくれた半井さんには頭を下げるしかない。


「お湯の準備終わったぞ」


「わかった」


電動トゥクトゥクから取った電気でティファールのポットをフル稼働させていた木栖が戻ってきた。あって良かった電気給湯器。


「音楽の準備できたんで、試しに流しますねー」


そんな声ともに何処からか小さめの音量でエルガーの愛の挨拶が流れてくる。


「ガッツリ和に寄せると相手の気が散りそうなんでこれくらいがええんちゃいますかね」


「そうですね。地球のクラシック音楽系の歌曲ならまだかろうじてこの世界にも似たようなものがありそうなので」


「ほな、僕らは裏に潜んでますんであとは真柴さんと木栖さんでよろしゅう頼みます」




****




今日のティーパーティの招待客は主に日本との外交反対派とされる貴族たちである。


労働時間制限に反対してるだけの人たちは後回しだ。


「お招き頂きありがとう、私が祖国の西の守りを司りし17家の1位を賜りしヨセフソンの当主ステファン・ヨセフソンである」


この国の西の守りを司るヨセフソン辺境伯は赤い髪に白髪が混ざって桜色になった髪が特徴的なダンディな男性であった。


今回の1番の目標はグルメで知られるこの人物に地球のお茶とお菓子を渡して、製菓技術の差を叩きつけること。そして繋がる事に意味があると気づかせることだ。


「日本国全権大使、こちらで言うところの外公騎士の真柴春彦と申します。こちらは連れ合いの木栖善泰と申します」


「ふむ、よろしく頼まれよう」


一花さんが客人を席へと案内すると、紅茶がすぐに注がれていく。


その紅茶に軽く口をつけるとピクッと驚きで体が揺らぐのが見えた。


「これはどこで買いつけたものかね?」


「地球で買い付けた秋摘みのダージリンティーです」


その顔に衝撃と僅かな焦りが見えた。


この世界で一番美味い紅茶は東の国の北東部にある子爵領のものとされる。


しかし双海公国滞在時にそのお茶を飲んだ深大寺は『日本の紅茶専門店で飲む秋摘みダージリンの下位互換』と評しており、その深大寺の言葉を信じて事前に持ち込んでおいたと言う訳である。


「お茶菓子も良かったらご賞味ください」


資生堂パーラーの花椿ビスケットとビスキュイ、アンリ・シャルパンティエのフィナンシェとマドレーヌ、向栄堂の瀬戸田レモンケーキ。


常温でも日持ちすることを優先したチョイスではあるが全て有名店のものであるので、味に間違いはない。


辺境伯がビスキュイに手を伸ばすと「……何と言うことだ」とつぶやくのが聞こえた。


(完全に勝ったな)


内心をグッと抑えながらあくまでもにこやかに応じる。


「お気に召されましたか」


「あ、ああ……」


大貴族でありながら動揺を隠しきれないと言うことは、俺たちの提示した味が想定を超えてきたと言うことだ。


金羊国のバックにつく国がこれほどの味を提供できる、と言う事には意味がある。


嗜好品であるお菓子はどうしても優先順位が低いので開発や発展が後手に回りがちである。そのお菓子の水準の高さを見て、必要性の高いものたちの開発発展具合まで頭が回ってくれたのだろう。


「手土産も用意しておりますのでごゆっくりお楽しみください」


さて、次はまだそこまで頭が周り切ってない人たちにもその辺りを匂わせにいくこととしよう。

作中のお菓子はネットでも入手可能なのでお取り寄せして思いをはせて頂ければ幸いです。

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