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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
20:全権大使は名探偵じゃない

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20-2

電動トゥクトゥクの旅は思いのほか順調であった。


道の整備が不十分なので揺れは酷かったが三輪のトゥクトゥクが転覆するほどではなかったし、夜も2~3時間走れたので多少遠くてもちゃんと屋根のある場所で眠れたことも大きかった。


1時間半から2時間おきに休憩と交代を挟みながら電動トゥクトゥクで走り、寝食を共にしていると多少は打ち解けても来る。


「なんか原付ベトナム縦断1800キロって感じですね」


6日目の昼食時、一花さんがぽそっとそんなことを呟いた。


かつて暮らした国の名前につい反応してしまった俺に対して、笠置さんは「あー」と納得したような声を上げる。


「確かにそんな感じですねえ。一花さん藩士ですか?」


「まあ、割と好きですね」


「私も好きですよ、なんかそう言われるとそんな気してきたし1/6の夢旅人流しましょうか?」


「流せるんですか?」


「スマホとトゥクトゥク繋げばイケますよ、Bluetoothか有線の二択なんでコード出して貰えます?」


「コードはあるけど曲ダウンロードしてないかも」


「私のスマホには夢旅人入れてあるんで、他のトゥクトゥクからも聞けるように設定いじりますよ」


「じゃあお願いします」


一花さんと意気投合し始めた笠置さんがノートパソコンをいじって何かし始めたのを遠目に見ながら、俺と木栖は薄い塩味のスープと硬めのパンをかじる。


俺たちは外で食べる時はいつもこんな感じだからと普通の顔をしているが、半井さんがスープに粉末だしを足しているのを見てやはり現代の日本人にはこの国の味付けは薄いのだなあと思ってしまう。


「そういえば、真柴さんさっきベトナムに反応してましたね」


一花さんが俺の方を見てそう声をかける。


「若い頃ハノイとホーチミンに2年ほど暮らしていましたので、つい」


「外交官というのは色々な国を回るものだと思ってましたが……」


「俺は元々本省勤務で外交官ではないんです。個人的に日本国外で唯一暮らしたことのある場所がベトナムなものですから、少し思い入れのあるんですよ」


俺にとってベトナムという国は20代前半の2年間を過ごした思い出の土地だから、少しばかり反応してしまった。


多分また足を踏み入れる機会もないだろうが、青年期を過ごした街への思い入れを捨てられるほど冷め切ってもいなかった。


「若い頃の思い出の土地って、特別な位置づけになりますよね」


遠き思い出の国からずいぶん遠くに来てしまったものだと心の奥でつぶやきつつ、俺はパンをスープに浸した。




****




食後、笠置さんが設定をいじったことで全く知らないポップス曲が流れる状態となったトゥクトゥクを走らせる。


「知らなかった」


「何が?」


「お前が研修期間を過ごしていた街に思い入れを持ってたこと」


木栖も俺の履歴書の中身くらいは頭の中に入ってるから、俺がベトナムに住んでいたことを知っているはずだがそこから思い入れまでは察することができない。


「俺だって、お前が暮らしていた街の名前は知っててもその土地でお前がどんな思い出を作ったかまでは知らない。そういうものじゃないか?」


「それはそうなんだけどな」


望まれれば聞かせてやってもいいけれど、まず今すべきなのは無事に目的地へ辿り着くことだ。


「まあ、いつか聞かせてやるよ」


トゥクトゥクの旅は続く。

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