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暖かい日がちょこちょこ出てくるようになった2月下旬、次の新しい仕事に向けての準備を始めることになった。
エルダールの島行き以来の長期不在に向けて早めに仕事を片付け、嘉神や石薙さんに仕事を引き継ぎ、長期不在に向けた挨拶もしておく。
「と言う訳でしばらく俺と木栖が不在になりますのでご挨拶に、と思いまして」
「そう言う事でしたか……金羊国からはグウズルンにお祝いの手紙を持って行ってもらう予定なので、良ければ僕の方から道案内を頼んでおきましょうか?」
「助かります」
ハルトル宰相の心遣いに頭を下げると「気にしないでください」と明るく答えた。
「日本と北の国が関係を持てば、中継地となる金羊国にも利益が落ちますからね」
純粋な気遣いのみならずそうした打算が出来る辺りこの人は政治家である。
無論北の国が直接日本に通じる道を作る可能性はあるのだが、ハルトル宰相は北の国がその方法を取らないと考えているのかもしれない。
だからこそ金羊国が中継地として便宜を図ることで日本側は見返りをある程度返してくれると確信している。
「ハルトル宰相のお心遣いについてはしっかり上にご報告いたしますよ」
「お願いしますね」
ただの人のいい羊獣人では居られなくなりつつあるハルトル宰相の薄い微笑みに、俺もまた可能な限りの笑みを持って返すのであった。
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あいさつ回りを終えて大使館に帰ると、噂の電動トゥクトゥクが届いていた。
太陽光パネルが屋根と一体化しており全体的に黒っぽいなかで前面に飾られた日本国旗が浮いたようになっている。
木栖がさっそく試乗して高さを調整しているようで「ただいま」と声をかけると「お帰り」と返ってくる。
「これが例の電動トゥクトゥクか?」
「ああ。練習とこっちでの実験運転も兼ねて先に一台持ってきてくれたんだ」
背の高い木栖でも問題なく入れる高さに調節されており、後ろに日本のナンバープレートのみならず、荷台や雨避けビニールも設置されている。椅子の座り心地もよさそうだ……何故ナンバープレートが滋賀なのは謎だが。
「運転はどうなってるんだ?」
「普通自動車免許があれば運転できる前提で設計されてるから問題なく行けると思う」
「となると道案内のグウズルン情報管理官は後ろに乗ってもらうことになるか、さすがに無免許の人の車には乗りたくないしな」
幸いこのトゥクトゥクは3人乗りのようだからもう一人乗っても問題ない。
荷物は荷台に積んで、無理なら他のに乗せて貰えばいい。
「道案内頼んだのか?」
「ハルトル宰相のお心遣いでな。俺たちが先頭に行って他の2台は後ろからついて来てもらう感じになるだろうが、それでもいちいち道を確かめずに済むのはでかい」
「だな。運転は俺達で2時間おき交代かな」
「……俺ペーパードライバーなんだが」
一応大学在学中に車の免許取ったので運転の仕方はなんとなく覚えてる。
しかし高校から現在まで電車通勤なうえ母親を施設に預けてからは車を手放したため、現在の俺は立派なペーパードライバーとなっている。
しかもハンドルの形がバイクに近く見えるがバイクなんて乗ったことない。
「練習すれば大丈夫だろ、ここのところ暖かい日も出てきたしちょうどいいだろ?」
「……まあお前に一日中運転させるのも悪いしな。次の休みの日にでも練習でもしてみるよ」




