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夕食の場で宰相閣下に国会制度についての書籍の取り寄せを依頼されたことを思い出し、納村にその話をすると「じゃあついでにほかの人の欲しいもん買ってきますよ」と言い出した。
「何か欲しいものでも?」
「自転車あったら便利かなあって、日本に比べれば道は悪いですけどほぼ平坦だしママチャリあれば結構楽だと思うんですよね」
納村の言うとおりだ。
ここに来るとき通路の大きさや燃料確保の問題など車を持ち込めず、唯一持ち込んだリヤカーを引いてほとんど人力で行っていたが自転車ならギリギリ持ち込める。
「そうだな、検討はしておこう」
「じゃあ下見しパンフレット貰ってきます、でも私だけでも先に買っていいですか?」
「備品ではなく自分用として自腹で買うんなら制限はしないが」
「まあそりゃそうか」
とりあえず本人が納得してくれたのでこれでよい事にする。
「すいません、私からも一つご提案が」
柊木医師が唐突に話を切り出した。
「折り畳み式浴槽、買いませんか」
「お風呂!買いましょ!」
柊木医師の提言に即同調したのは納村だった。
この2人は風呂に妙な執着があるようで、解決したいとは思っていたがまさかこういう形で出てくるとは思わなかった。
「陸上自衛隊の野外入浴セット二型でも導入する気か?」
「さすがにそこまで大仰な物ではなくて家庭用のものがあるはずです、あまり大きくはありませんが大人1人が入れるサイズのものでも交代で使えれば多少は違うでしょうから」
「その場合脱衣スペースの準備も必要になるがどこに作る気だ?」
風呂なら人目を避けられるような仕切りを作る必要がある。
外から見えにくくするための垣根はあるがさすがにそうした場所の用意はない。
「家庭用の折りたためるものなら寮の出入り口に組み立てて終わったら片付ける形も取れますよ、寮内ではタオルを巻いてもらう事になりますが」
寮の出入り口は大使館に繋がっているものと別に直接中庭に出られる出入り口がある。
なのでそこに置けば解決するというのは分からないでもない。
(風呂の排水はほかのと同じように流すとしてもお湯の確保と温度管理はどうするつもりなんだ?)
ここでは生活排水は地面に掘った穴に流し、土の自然ろ過に任せるという形をとっている。
こちらとしても自然に流して悪そうなものは使っていないので郷に従う事にしたが本当にいいのかはよく分からない。
しかしここで不可と言ったところで風呂への執着が最大限になりつつある2人が諦めてくれるとは思えない。
「浴槽の購入は許可するが予算は2万円以下、安全なお湯の確保や排水については2人で方法を考えて欲しい」
そう告げるとよっしゃ!と言う顔で納村と柊木医師が顔を見合わせるので、俺はどっと疲れてしまって「あと必要なものはないよな?ないならこの話は終わりで」という事しかできなかった。
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翌日、大量の報告書と追加購入物資の予算をリヤカーに積んだ納村はファンナル隊長と日本へ一時帰国の途に就いた。
嘉神もジョンとビョルト魔術官を引き連れて、まだ視察に行けずにいる金羊国の西側への視察に出発していった。
「これでしばらくは静かになるか?」
「帰ってきたら苦労が増えると思うがな」
木栖がそう呟くので二人の帰還後の仕事を思うと心がげんなりするのだった。




