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つい先日買ったばかりの雪かき用のスコップやタイヤのない手押し車(納村はママさんダンプと呼んでた)を手に、さっそく納村達が雪かきを始める。
その雪は胸の下辺りまで積もっており、足で地面を掘り起こすと石薙さんに巻き尺を伸ばして貰う。
「72.5センチですね」
「一晩で結構積もりましたね」
証拠写真と共に記録を取っておく。
寝る前はせいぜい10センチかそこらだったというのにずいぶん積もったものだ。
白くさらさらしたパウダースノーは指先で軽く触れるとすぐに溶ける儚さだ。
「そうだ、雪の結晶記録」
これも日本で異世界の研究材料として求められている。
黒いプラスチックの下敷きを軽く冷やしてから雪をパラパラとまき散らし、これをスマホのカメラで拡大して撮影すると美しい雪の結晶が撮影できる。
「異世界でも雪は六角形なんですねえ」
「物質等の基本はあまり大きく変わらないですからね」
数枚の雪の結晶をスマホに収めると空を見上げて、またそのうち降りそうな曇天にため息が漏れた。
寒すぎるのでさっさと中に引っ込むが中も中で外よりマシ程度の寒さだ。
「大使、カイロ使います?」
小さな布袋を手渡してくるのでありがたくお借りして指先を温める。
(暖かいな)
こういう時のカイロは本当に助かる。
指先を程よく温めた後にカイロを返すと、遠くから半鐘の音がする。
上空にはファンナル隊長の部下だと思われる鳥獣人が半鐘を鳴らしながら大きな声で叫んでいる。
「これから雪を溶かしまーす!危険ですので半鐘が聞こえなくなるまで大通りには出ないでくださーい!」
何をするのかと思って窓の外へと足を向ける。
結露した窓を石薙さんがハンカチで拭うと窓の外の様子がよく見えた。
その瞬間雪に埋もれた通りにぼうっとまっすぐに焔が伸びると、大通りの雪が一瞬で溶けて水になる。
「……あぶないな」
「危ないですよねえ」
道のど真ん中で火炎放射をぶちかまして雪を解かす、などと言う無茶な方法をとれるのはこの道がまっすぐであることもさることながら魔術の存在も大きいのだろう。
日本だと火炎放射器がかさばるのでそんな気軽に取れる方法ではない。
「一歩間違えたら水蒸気爆発でこの辺吹き飛んでそうですよね」
「水蒸気爆発って熱したフライパンに水滴をたらして激しく弾け飛ぶアレですよね」
「ですね。もしかするとこちらの世界では魔術由来の炎で雪を一気に溶解させる方法が確立されてるのかもしれませんが、間違えたら爆発しそうでヒヤヒヤしますね……それに火炎放射器での融雪ってそんなにエネルギー効率よくないって聞いたような気がするんですが」
「こっちの世界の人には関係ないんじゃないですか?まったく、ヒヤヒヤするのはこの雪だけでいいんですけどね」
朝っぱらから身体のみならず肝まで冷やしてしまっていると、前庭の雪かきをしていた木栖が門の外に近寄って雪を溶かしていた人物を呼び寄せた。
あの黒髪の女性はどう見てもクライフ上級魔術官である。
「同じこと話してるんだろうな」
「でしょうね」
さすがに火炎放射での融雪は危なすぎる、俺も木栖もまだ死にたくはないのだ。
(木栖にはあとでどういう話をしたのか聞いておくとするか)
怪我人は出ていなさそうなことを窓越しに確認すると、大使館内の設備凍結が起きていない事を確認するため館内を回ることになるのであった。




