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「で、次のご相談……といいますか、聞きたい事なんですけど」
そう言って出してきたのは社会の教科書だった。
小学校の社会の教科書が何で出てくるのか、と思っていると差し出されたのは国会についてのページだった。
「この国会という仕組みについてなんです」
「国会を作るんですか?」
「今すぐは無理でしょうが、いずれは作れればと思うんです。そのための参考になる話が聞ければと」
これでも官僚の端くれであるので選挙に行ったり国会の様子を見た経験はある。
しかし参考になる話が出来るかと言われると悩ましいところだ。
「日本での選挙や国会討論の光景についてならお話しできますよ、ただこれも難しいので本当に導入するなら独立した組織にすべきかと」
「それも検討しています。この国が他国に害されることも内部から腐敗していくことのない国家にしていくためには国の事が国民一人ひとりにとっての自分事であったほうが良いと思っているので」
「どういうことです?」
宰相は鬼まんじゅうの残りかすをお茶で流し込み、少し悩んでから口を開く。
「僕は長らくある王子の所有する奴隷でした。
王や貴族という血縁に基づいた権力構造が生み出す歪みや腐敗はそれなりに見てきたつもりですし、なにより王政は人を孤独にします。あの人、僕を所有していた王子の孤独に蝕まれた精神のいびつさは嫌というほど見てきています。
だから僕は権力を出来る限り分割することでひとりの人間が大きな権力を握らないようにすることにした。権力が生み出す孤独をここでは生み出さないようにするためです」
その言葉は怜悧でありながら愛情があった。
権力や特権的地位を持つが故の孤独というものには馴染みのない俺にはピンとこないが、少なくともかつての持ち主だという王子のようにならないために権力を分割したのだという事が分かる。
「……力は人を孤独にするんですね」
「ええ、あらゆる欲望を叶える権力という力に人間は溺れる。それが僕の信条です」
「王がいないのはそういう理由でしたか」
この世界では未だ王政が強く残っている。
他国の情報は伝聞でしか把握していないが、この大陸にある4つの国のうち3つが絶対王政国家となっている。
南の国は都市国家の首長が集まって運営する連邦制だが、首長は血縁で決められ都市国家は王政に近い形で運営されている。
王がいない国は大陸内ではここだけと言ってもいい。
「宰相は少なくとも建前においては血縁に寄らず平民でもなれる最高権力者ですからね」
理屈はわかった。
つまるところ、この人は理想主義的なのだ。
お人好しで理想主義的な上ちょっと警戒心がない。だからこそ彼の作ったこの国は好ましく思えるんだろう。
「ハルトル宰相は人がいいですね」
「たまに言われます」
苦笑いをしながら3個目の鬼まんじゅうを取る、よほど気にいったんだろうか。
「今度地球の国会制度に関する資料を日本から取り寄せます、お金は宰相閣下ご自身の財布から出していただくことになりますが構いませんか?」
「ぜひ」




