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大宮駅からバスで10分ちょっとの距離にあるその大学病院は平日でありながら患者や見舞客が多く集っており、清潔で広々としていながらも妙なざわめきがあった。
感染症予防のためにマスクを着用してから入院患者病棟へ着いた時だった。
「善泰?直元も来てくれてたのね?」
70くらいの女性が俺の隣にいた善泰を見てそう呼び掛けた。
隣には30前後の男女と、俺らより少し下ぐらいの年頃の男性もいる。
(間違いない。この人たちはこいつの家族だ)
マスクのせいで顔半分は見えていないが、雰囲気から直感的にそう感じた。
というか木栖家って全員美形なのか?マスクをつけてても妙に目鼻立ちが整っているように見えるのだが……。
「久しぶり。おふくろ、礼保、茂勝、珠妃」
一瞬だけマスクをずらして顔を見せると、70くらいの女性が「本当に来てくれたのね」とつぶやいた。
たぶんこの人が木栖家の母なのだろう。
「直元の隣に居る子が例の養子にした子ね?」
「うん、俺の養い子のディエゴ」
人見知りが発動してるのか軽く頭を下げただけのディエゴ少年はさらりと受け流された、たぶん事前に同行させると話を通してあったのだろう。
と、なれば。
「……じゃあ、善泰の横にいるひとは?」
(当然問題になるのは俺だよな)
一瞬マスクを下げて顔を見せた後「木栖善泰の伴侶として生活を共にしております、真柴春彦と申します」とおおむね嘘ではない言い回しで自己紹介をした。
すると相手の顔がにわかに曇った。
「兄貴がゲイを治してないのは知ってたけど、連れて来る必要はあったのか?」
「レオだって親の見舞いに妻子を連れて来るだろう?俺が連れて来て何の問題がある」
「うちのかみさんは法的にも家族だけど、その人は家族じゃないだろ」
ちらりと直元さんの方を見ると俺の方に耳打ちしてくれる。
「いま兄貴と話してるのは木栖家次男の礼保で、さっき話してたのはうちのおふくろですね。後ろに居るのが末弟の茂勝と妹の珠妃です」
「ありがとう」
善泰・礼保兄弟が口喧嘩を始めたのに対し、どちらにもつけずオロオロと困惑する末弟がおり、さらに妹の方は安堵に泣き崩れる母を介抱している。
とりあえずこの状態を続けるのは得策ではないだろう。
この場を収めるなら母親を味方につけたほうがいい。
「急にしゃしゃり出て来て困惑が大きいかと思われますが、今回彼に同行することをお許しいただけますか?」
「……10数年ぶりだものね、1人じゃ怖いからお友達を連れて来たんでしょう?」
善泰の訂正しようとする声を遮り「今回はそういうことにしましょう」と答える。
こんな喧嘩に無駄な時間や気力を使わせるわけにいかない。
むしろ木栖善泰にとってはこの後が勝負だ。
長患いで短気になったの父と、息子の在り方を受け入れがたい母と、兄弟たち。彼らの今をしっかり見つめてこれからの関係を決めること。
木栖善泰にはむしろそこに自分の神経を注ぐべきだろう。
「ここでずっと喧嘩していたら他の見舞客の邪魔になりますから、病室に行きましょうか」
本題はこれからだ。




