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そんな訳で連れて行かれたのは大宮駅のほど近くにあるすずらん通りにあるはま寿司だった。
『ナオ、スシ頼んでいい?』
『食い過ぎない程度にな』
早速タブレットで寿司を注文し始めたディエゴ少年を横目に、直元さん(面倒なので以後木栖家の人は全員名前で呼ぶ)がお茶をだしてくる。
「真柴さんはうちの兄貴から家庭内のことどのくらい聞いてます?」
「家族構成と、カトリックの両親とはずっと縁を切ってたのに今回父親が倒れて連絡が来た事くらいですかね」
「じゃあ真柴さんに追加で話しとくことは無い感じかな。まずは親父が倒れた時の話からかな」
「そこから頼む。倒れたのはお盆の頃だったか?」
「お盆の少し前だな、ちょうど俺らが集まるタイミングだからそれ用の買い出ししてた時に脳梗塞でぶっ倒れたらしい」
脳梗塞で倒れた後、両親と同居する妹が音信不通の善泰を除いた兄弟3人を呼び寄せてしばらく介護に勤しんでいたらしい。
しかし脳梗塞の後遺症の治療のため入院が長期化するにつれて、木栖家には父親の入院費が足りないという問題が浮上してきた。
先ほど述べたように木栖家は男4人女1人の5人兄弟であり、しかも全員が大学まで卒業している。
それだけの経済力がどこから出ていたか?と言うと両親の涙ぐましい節約と最貧な暮らしぶりの賜物であり、子どもの教育に金銭を注ぐあまり貯蓄がほぼなかった。
兄弟たちは父親の入院費の足しにと母へお金を渡したものの、長期化する入院により費用は着実に嵩んで行った。
それを見た木栖家次男(善泰から見て上の弟)が音信不通の長男にも入院費を出して貰えば良いのでは?と提案し、母親はその提案を受け入れて三男(今目の前にいる直元さんである)の協力を受けながらこうして連絡してきたと言うわけである。
「金の話は礼保が言い出しっぺだった訳か」
「しゃーないよ、礼保も子供いるからこれ以上支援したら自分の生活が成り立たなくなるって判断だったんだろ。俺もディエゴがいるし、茂勝もそんなに金のある暮らしはしてないっぽいしね」
隣で早速寿司を食べ始めたディエゴ少年を温かい目で見守る直元さんの目には穏やかな父性が滲んでいる。
俺もそろそろ寿司を頼むか、とタブレットに手を伸ばしマグロだの玉子だのをこっそり注文しておいた。
「お袋は入院費と関係改善、どっちが望みなんだ?」
「関係改善かな。もしかしたら今なら変わってくれるかもって言ってたし」
「変わってくれる?」
「これを機に普通に戻ってくれるかも、ってさ」
その言葉を聞いた木栖は苦虫を噛み潰したような顔をして、弟の顔を見た。
「……望んでこうなった訳じゃないんだがなぁ」
「俺も言ったけど、今からでも頑張って普通のフリしたらあの子に神罰が降ることはないだろうからってさ」
その言い分からは母親なりの情が感じられる。
けれどそれは木栖善泰という人間の望んだ言葉ではないことは、聞いた本人の困惑と苦悶の混ざった表情に現れている。
あんまり景気の悪そうな顔をしているので「おい」と声をかけてから、中トロの皿を善泰の前に一つ置いてやる。
「悪くなる前に食え」
「……そうだな、少し食べるか」
ディエゴ少年は既に10皿以上食べており、まだ一皿も食べてないのは木栖兄弟だけだ。
一口で中トロマグロを食べると「次はブリかハマチにするかな」とつぶやいた。




