18-2
冬至の前日を迎えた金羊国から東京へと一歩足を踏み出せば、街は御屠蘇気分の剥がれた1月半ばの空気が広がっていた。
例年通り霞が関・永田町での報告会を終え、例年通り緊急時の連絡先確認を終えると冬の休暇が始まった。
「なあ、あの件だが」
木栖が言うところのあの件―木栖が長年縁を切っていた家族に会いに行くのについて来て欲しい、という話―を思い出すまで5秒ほどかかった。
「あー……お前の家族の件か、いつ行く?」
「出来るだけ早めに片をつけようと思って、明日のヒトヒト、じゃなくて午前11時ぐらいに大宮駅の豆の木待ち合わせでどうだ?」
大宮駅の豆の木という単語に妙な懐かしさを覚えつつも「分かった」と軽く承諾をした。
―翌日。
平日午前中の大宮駅に降り立つと、思っていたよりも変わっていない事に妙な懐かしさを覚えた。
高校時代には何かあるたびに利用していた駅もしばらく来ていないからもっと大きく変わっている気もしたが、そうでもないらしい。
改札を出て豆の木の方を見ると背の高い男前が落ち着きなく改札の方を見つめており、俺と視線がかみ合った瞬間に少しだけ安堵の表情に変わった。
「落ち着きがゼロだな」
「悪い」
「別にいいよ。で、病院行くのか?」
「病院のお見舞いは午後からなんで、先に真ん中の弟と会う」
木栖には弟が3人いたはずだが、真ん中という事は2番目の弟(木栖家の3男)ということか。
まあ10何年振りなのだ、少しづつ慣らしておきたい気持ちも分かる。
「分かった。そう言えば、俺はお前の伴侶としてお前の家族に会う方が良いよな?」
厳密には伴侶といい難いが表向きはパートナーという事になっている俺達であるし、普通友達を自分の親の見舞いに同行させない気がする。まして10数年ぶりであるなら尚更。
木栖は数秒硬直した後、ちょっとだけ悩んで「言われてみればそうだな?」とつぶやいた。
「気づいてなかったのかよ」
「これは完全に俺が悪いな。お前が良いなら恋人という事で……次があったらその時は別れたことにする……」
なんとなく木栖の表情に淡い俺への恋心が滲む。
甘さを抑え込もうとするその表情が俺のために出ているものだと思うと、まあ悪い気はしない。
「じゃあそうする。全員木栖真柴だしお前への呼び方も変えた方が良いか?」
「あ゛~゛……」
長い逡巡ののちに「お前に任せる」と木栖が答える。
なんとなくからかいたい気分になった俺はニヤリとほくそ笑んでしまう。
「で、善泰。お前の真ん中の弟とはどこで会うんだ?」
「もうすぐ来ると思う」
「もう来てるんだけど」
知らない声が突然俺たちに向けられて、その方向に目を向けるとアーティステックな服に身を包んだ男とヒスパニック系の小さな少年が立っていた。
「おま、いつから……」
「『俺はお前の伴侶として~』の辺りから」
「ほぼ全部聞いてたのか」
「なんかそれどころじゃなさそうだから口挟まなかっただけだよ。ここで聞いたことは言わないでおくから」
兄弟での会話に一区切りついたところで、アーティスティックな服装に身を包んだ男性が俺の方を見た。
「木栖善泰の2人目の弟で、アメリカでアニメーターやってます木栖直元って言います。こっちは俺の養い子のディエゴって言います、英語しかできないんでこの子と話す時は英語でお願いします」
改めて見比べてみると衣服や立ち姿こそずいぶん違うが、その面立ちなどは兄弟と言われれば納得の似通い具合だ。
ディエゴ少年は見た目6~8歳くらいだろうか、見慣れない人への警戒心がその視線に滲んでおり養い親の手をぎゅっと握りしめている。
少し腰を下ろして視線を合わせながら『真柴春彦です、よろしく』と英語で語りかける。
『ディエゴ。こっちのデカくてイカついのは俺の兄貴のヨシヤス、さっき挨拶してくれたのはその兄貴のパートナーのハルヒコな。帰ったら忘れていいから今だけは覚えとけよ』
『……わかった』
ディエゴ少年は軽く頷くがまだその顔には緊張感が薄く滲んでいる。やはりこの子は人見知りなのかもしれない。
「真柴さん、兄貴。立ち話もアレなんで先にメシにしましょ」




