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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
18:Chosen Family

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235/325

18-1

12月に差し掛かると金羊国は本格的な冬の始まりを迎えていた。


大使館でこの半年ほど背負っていたゴタゴタもすべて落ち着いて通常営業に戻り、ようやく心穏やかに日常業務に取り組めるようになった頃。


「全員分のお手紙お持ちしましたよー」


日本から通院を終えて戻ってきた納村がから、外務省が保管していたこの一か月に届いた大使館メンバー宛の手紙が手渡される。


納税だの健康保険だのの書類に混ざる家族や友人からの手紙を受け取るこの一瞬には独特の人の温もりがあり、その一瞬の温かさが俺は少しだけ好きだった。


まあ俺に毎月手紙を出してくれるのは叔母ぐらいしかいないのだが、それでも叔母からの近況報告と長期休暇にはまた帰っておいでという言葉には天涯孤独の身になろうとする甥っ子への叔母からの愛情が滲んでいる。


隣にいた木栖の顔をふと覗くと、表情のない冷たい顔をして届いた手紙を読んでいた。


「どうした?」


読んでいた手紙を乱雑にポケットに捻じ込んだ木栖は何かをごまかすように「……いや、なんでもない」と答えた。


絶対に大丈夫じゃない顔でそんなことを言うが、俺が深入りして良いのかと一瞬の逡巡の後に俺はこう口を開いた。


「助力の要る問題なら協力するから早めに言えよ」


「……ああ」




****




木栖が俺に相談を持ちかけたのはそれから1週間ほど経った頃、大使館の公休日の夜のことだった。


突然俺の部屋をノックした木栖が真剣な顔で「相談に乗ってくれないか」と言うので中にあげてやることにした。


適当な敷物に腰を下ろして水差しの水を分けてやった後、木栖がくしゃくしゃの手紙と封筒を出してきた。


「実家の家族から手紙が来た」


「お前確か縁切ってたんじゃないか?」


「ほぼ、な。法的な縁切りまでは出来てないから一応まだ家族ではある。問題はその手紙の内容なんだ」


ほとんど縁を切っていた家族からの手紙というものに妙な不穏さを感じ取る。


「俺が読んで良いのか?」


「ああ」


くしゃくしゃになった便箋に手を伸ばし、シワを軽く伸ばしてから目を通す。


送り主は女性なのだろう、柔らかな丸みを帯びた文字は亡き母の書き文字を彷彿とさせた。


内容は『私の夫が今年の夏に倒れて入院している。そちらが休みの時にでも大宮の大学病院に来て夫を見舞って欲しい、可能ならば夫の入院・治療費も貸して欲しい。これを機に私たちはあなたとの関係改善を望んでいる』という内容のものだった。


「送り主はお前の母親、で良いのか?」


「ああ。お前はどう思う?」


「俺はお前のように家族と縁を切ってないからわからんが、俺ならこれを最後と決めて会いに行くだろうな」


「どうして?」




「金輪際縁を切るか、縁を戻すか。今の家族の姿を見て決めるために」




この目の前の男が家族と縁を切ってたのは自分がゲイであったからだ。


もしゲイであるという事に対して考えが変わっていたら肉親と縁を戻すいいきっかけになるし、変わっていなかったらこの先の改善に期待もなく穏やかに今生の縁を切れる。


「肉親が俺が俺であることを受け入れてくれるのかを見るために?」


「俺ならそうする、という話だけどな」


「そうか」


親との縁を切る、というのは大きな決断である。


俺が母を施設に入れると決めた時、俺は自分の体の一部をもがれたように辛かったのを思い出す。今生の別れでも無いのにあんなに辛かったのだ。


親子の縁をこれきりにすると決意するとなればその辛さは体の一部をもぐなどと言うものでは無いだろう。


「まあ決めるのはお前だけどな」


念押しの一言の後にしばらくの沈黙が広がった。


「……ついてきてくれないか」


「お前の親の見舞いに?」


「ああ。お前にこんなこと頼むべきではないと思うが、1人は怖過ぎる」


大柄な男が切実さを込めて怖いと言う姿を俺は初めて見た。


あんまりその恐怖感が切実に見えたので、この男の側に寄り添ってやりたいという情まで湧いてきてしまった。


「俺の貸し出しは高くつくぞ、同行中の食費はお前の奢りだ」


「むしろそれでついてきてくれるなら十分だ」

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