17-16
3日めの朝は少し早めに起きて目的地へ向かうため、首都高から川崎ジャンクション経由で東京湾アクアラインを渡ることになった。
休憩も兼ねて海ほたるに立ち寄ってみると、北の国の御一行は海上に建てられた建造物に己の目を疑うような顔をしながらおのおの施設内を探索し始める。
(国交省の連中がここの見学捩じ込んだらしいけど正解だったな)
建設記念碑として置かれた大型のシールドマシンカッターに対しても、魔術なしに人間が作ったとは思えないと衝撃を与えているようでそのリアクションがもう見ていて面白い。
遠目から缶コーヒー片手にその様子を眺めていると、隣にいた木栖が「こうも驚かれると楽しくなってくるな」とつぶやいた。
「俺も同意見だよ」
お互い考えていることは同じらしい。
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そんな訳で本日の目的地となる木更津の製油所に到着すると、案内を担当する出雲崎石油の担当者と通訳の誘導で2組に分かれて見学のバスへ乗り込んでいく(王侯貴族と従者を一緒にすると苦情が出そうだったので念のため分けた)
俺と木栖も同じバスに乗り込むと、最初に受けるのはこの世界における原油の使い道についての話だった。
ガソリンや重油のような燃料からプラスチックや化学繊維など、黒油の地球における使い道の多さを知ると日本側がやたらと欲しがる理由を悟ったらしい北の国の国王はふいにこう切り出した、
「ならば多少の値上げに応じても良いのではないか?」
担当者は「地球上の原油価格と照らし合わせながら適正な価格での買取をしておりますので……」と困ったように答えながら何故か俺に助けを求めるような視線を向けてきた。
「そのあたりは専門外ですので、国のエネルギー担当者に相談してください」
(意訳:俺に専門外の事で助けを求めないでください)
俺の心の声を読み取ったらしい担当者は困ったように外を見ると、大型のタンカーが見えてきた。
「あ、まもなくタンカーの船着場となります!タンカーと言いますのは液体、ここでは原油を運ぶ専用船のことでして~」
力技でタンカーに話をすり替えると、車窓の向こうに大型タンカーのお出ましだ。
船は双海公国で飽きるほど見たがあの国で見た大型船の10倍はありそうな大型の金属船は異世界人を絶句させた。
「つくづく思いますけど、日本やこの世界が僕らの敵でなくてよかったですよ……」
ハルトル宰相がつぶやく言葉は恐らくこの車内の人々全ての本音だったろう。
今まで見て来たものは金羊国や北の国にはないものが多かったが、タンカーに近い大型貨物船はあちらの世界にも存在している。
自分たちもよく知る貨物船の最上位互換を見せられてしまえば、誰しもそんな気持ちになるのもわかるというものであろう。むしろ日本側としては敵に回したくない存在でいてくれた方が都合がいいので余計なことは言わないが。
タンカーは車内から見るだけで済ませたが、次の工程である石油の精製は間近に近寄って見学することになった。
常圧蒸留装置を眺めながらふと北の国の王が「これなら持ち帰れるのではないか?」と言い出した。
「粒子分割法による大型建造物の持ち帰りですね、まあ5人くらいいれば出来るでしょうね」
本気か?と言いたくもなるがこの人達は異世界人である。色々と便利な魔術があれば製油所の設備を持ち帰るくらい造作も無いのかもしれない。
「……今から持ち帰るおつもりならさすがに勘弁してください」
「物だけあっても使い方が分からなければ意味が無い。これらを持ち帰るとしても将来的な話だ」
(その気になれば製油所の常圧蒸留装置を持ち帰れるのかよこの人らは)
魔術と言うものの際限のなさに若干の恐怖を覚えつつ、製油所の見学は午前中で終わった。




