17-15
この日の本社めぐりは気の休まらない大騒ぎとなった。
きっかけは「こんないい建物作れるぐらいならお金あるのでしょうし、我々の黒油の買取価格を上げてくれてもいいのでは?(要約)」とセナトロフ男爵が切り出したことだ。
ヘルペンシュルツ宰相補佐官や国王も黒油の値上げに同調した上ハルトル宰相も「値段を変えずとも買取量を増やすのはどうですか?あ、もちろんうちの国から人を雇って頂けるとありがたいですね(要約)」と乗っかり、出雲崎側を困らせてしまったのである。
出雲崎側からすれば異世界産原油の購入量や買取価格は地球における原油価格や国のエネルギー政策も絡んでくるのでそんな気軽に上げられず、なにより輸送コストが思いのほか大きく異世界産原油による利益はほぼゼロで値上げに応じられる状態にないことを懇切丁寧に説明した。
しかし王侯貴族である彼らには『王が言うなら値上げするのが普通では?』と言う感覚があり、同席していた通訳である俺と木栖の説明能力不足も相まってその辺の理屈があまり通じなかったので説得は混迷を極めた。
最終的にエネルギー政策をやってる官僚連中にヘルプを出し「今は無理だが投資による輸送コスト削減に協力するのなら原油買取価格値上げに応じてもいい(要約)」となるまでだいぶ時間を食ったのである。
まあ北の国側からすると金羊国と組んでる日本からの投資受け入れは教会に睨まれて最悪王位はく奪というリスクがあるので無理だな……となるのだが、それでも収入増を諦めきれないセナトロフ男爵は同様の話を紅忠・WSO社・ペクテン社にも同様の話を吹っ掛けたのである。
もちろん吹っ掛けられた3社からも「輸送コストが高いので今すぐは無理(要約)」と同じような理由で断られ、微妙な空気のまま夜を迎えたのであった。
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この日の夜は異世界ビジネスに興味を持つ国内外の企業各社が参加する立食パーティーとなっていた。
ホテルオークラのいちばん大きな大宴会場を貸し切り、ステージには最近流行りの歌手やアイドル、ダンサーによるパフォーマンスで北の国御一行をもてなしている。
ふと周囲に目を向けると、宴会場の隅にいたヘルペンシュルツ宰相補佐官の横に見慣れない女性がいる。
パステルカラーのミニスカワンピースに淡いピンク色した花柄の髪飾りをした18歳ぐらいの日本人女性だ。
(あの衣装、さっき舞台で踊ってたアイドルの子だよな?)
悪い絡まれ方をしている風には見えないがもしものためにメシを食いつつ注意深く観察してみると、身振り手振りで楽し気にコミュニケーションをとっているように見える。
初対面にしては距離感が近すぎるように見えるが、クライフ上級魔術官が相模さんに対してよくやっている魔術によるコミュニケーションをしているのであればあり得ない事ではない。あれは指を額に当てて行ってるしな。
「真柴さん、大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてきたのはハルトル宰相だった。
「ああ、すいません。少し考えごとをしていまして」
「この2日間ずっと頑張ってくれていますもんね。無理なさらないでください」
「まだ続くんですけどね」
ハハッと某夢の国のネズミような乾いた笑いがこぼれると、哀れみのような感謝のような表情を一瞬見せてきた。
「そうですね。明日は製油所とトンネル建設地の見学でしたっけ」
「はい。明日はちょっと車に乗ってる時間が長いので不慣れだと厳しいものがあるかもしれませんが……」
「日本の車は乗り心地が良いので平気ですよ」
ハルトル宰相は楽しそうに北の国の国王の方を向くが、本人は「何の乗るかではなく誰と乗るかの方が大事だ」とそっけなく答えた。
(この人本当にハルトル宰相大好き人間だな?)
ペットに向ける愛着にしては明らかに重すぎる情念を、特に気にした素振りも無いように受け流すハルトル宰相は大物過ぎる。




