17-11
首相から北の国御一行(従者を含めた全員だ)に用意してきたのはみんなご存知まい泉のカツサンドとペットボトル入り鹿児島県産紅茶だった。
記者たちは配られた軽食がコンビニでも手に入りそうな組み合わせである事を不思議そうに見ているのを感じる。
「豚肉に衣を付けて高温の油で泳がせたものを柔らかいパンに挟んだ、カツサンドという料理です」
金羊国ではあまり畜産は行われていないが、北の国ではいくつかの地域で畜産が行われているので小金持ち以上の階級であれば馴染みのあるお肉だ(農村とかだとジビエが主流らしい)
日本側は早速カツサンドを食べ始めるが、北の国側はまず毒味から始める。
毒味として数人の従者が先に一口食べると国王の毒見役の騎士が「これは……」と呟く。
「身体に異変は?」
「ありません。ただ初めて食べる味でしたのでつい」
「具体的には?」
「味付けに野菜や果物や香辛料がこれだけふんだんに使われたものを初めて食べたものですから」
国王の毒見役ともなれば相当に良いものを食べているはずだが、このような感嘆の声が出るのは北の国の御一行にとっては興味深いようだった。
それぞれが配られたカツサンドに口をつけると驚き、目を見合わせた。
北の国の国王も一口二口と食べたあとにふとこんな事を尋ねてきた。
「この料理は普段どのように食べられているのだろうか?」
「我が国では定番の軽食ですね。今回は時間の都合でカツサンドもお茶も庶民でも気軽に買える安価なものしかご用意出来ませんでしたが……」
あくまで時間の都合であると強調しているが前々から準備しているのだしそんな訳なかろう、と内心でツッコミを入れつつカツサンドにかぶりつく。
それにしてカツサンドなんて久しぶりなせいかいつもより美味しく感じられる。
「これを庶民が?」
「庶民でもこれほど香辛料を含んだものが気軽に食べられるということは国内で生産されてるのですか?」
「いえ、輸入がほとんどですね。残念ながら我が国は食料自給率があまり高くありませんので」
「輸入にほとんどを頼っているのにスパイスを普段使い出来るのか!」
そう驚きの声を上げたのはヘルペンシュルツ宰相補佐官で、首相はその言葉を日本語に訳してもらったあと「はい」と同意して見せた。
つまり、最初から首相とその関係者はこの反応を見越して敢えてチェーン店のカツサンドを用意してきたのだ。
食料という生きる礎を他国に頼っていても輸入品のスパイスを多用した料理を普段から食べられる、そういう国力を持った国だと見せつけるためにわざと安価なチェーン店のカツサンドを用意してきたのだ。
普通スパイス系の料理と言えばカレーだが昼食を食べない文化圏の人には重すぎる、同じソース系の料理であるお好み焼きや串カツは冷めてしまっては美味しくない。多少冷めても美味しく食べられるソース味の食べ物、というところでカツサンドとなったのだろう。
斜向かいの日本側の閣僚は普通に美味しく食べているし、取材陣も高級品を羨むというより見てたら食いたくなってきたという表情な事からその言葉が嘘ではないと見ればわかる。
「きっとこの国が温暖で我々より自給力があるから出来る事なのだろうな」
皮肉めいた大きめの独り言が北の国の国王からこぼれ落ちると、それを掬い上げた通訳が首相に耳打ちした。
「そんな事はございません。我が国はこの辺りから少し離れれば急峻な山と激流の大河に挟まれたこの世界屈指の災害大国です。我々との関係が深まれば貴国も我が国と同じようにそのカツサンドを庶民も食べられるような国になるはずです。そのための第一歩が今回の訪日なのですから」
「我が国の厄介者をこの国に送れば送るだけ金にしてくれるというなら、そうなる日も近いだろうな」
北の国の国王がそう答えると首相はニコリと笑って「ええ。いくらでも売ってください」と答えてくるのだった。




