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次の訪問地は上野の国立科学館である。
ちゃんと巡ろうと思うと2時間でも3時間でも費やされる場所であるが、今回は地球館のみを回るコースになる。動物は上野動物園で見てるから動物関係は軽くさらう程度だ。
ここも学芸員が案内人となり、俺たちは後ろでフォローを入れつつのんびり展示物を眺める時間となる。
「科博なんて子どものころ以来だな」
「確かに」
隕石や化石についての説明に対する北の国御一行の反応は様々で、興味のある人とない人に別れるようだった。
興味のない人にとってはただの変な石ころでしかないので変なもんを置いておくのだなあ程度であったが、興味のある人は太古の生物への浪漫にそわそわする人も見かけていた。
偶然近くにいた使用人の女性などはちょうど近くにいた俺に「この昔の動物の骨は私でも見つけられますか?」などと熱量を必死に抑えながら聞いてきた。
「私は専門家ではありませんので分かりませんが、一般の人が見つける例もありますから見つけられる可能性はありますよ」
「探すコツなどはご存じありませんか?」
「……後で専門家に聞いてみます」
まあ化石に興味のある貴族もいるようだしコツをまとめてもらった紙を多めに印刷して、このメイドさんにも渡しておけばよかろう。それを読んで本当にやるかどうかは本人次第だ。
生物保全についての展示では、いきなり学芸員に呼ばれて防疫が生物保全と関わっている事を説明させられて肝を冷やす一幕もあったがどうにか切り抜けると二階へ上がっていく。
科博見学中に最も反応があったのはやはり2階の科学技術についての展示だった。
方位磁石や験潮儀(海面の昇降を測る機械)は貿易立国である南の国で現在研究されているものの完成形であるし、織機や計算機などは持ち込めば仕事を楽にしてくれるだろう産物だった。
時間の関係で詳細に書き写せない事を残念がる記録者や、卓上計算機が欲しいと俺たちに無言の圧力をかけてくる貴族たちを見てどうしようかと木栖と顔を見合わせた。
(太陽光パネル式の電卓を持ち帰らせること自体は別に否定しないんだが、あっちの世界の数学の発展が止まらないか……?)
電池を使わない四則演算のみのタイプなら影響は大きくないだろうし、キーの数字だけシールで大陸標準語の数字に置き換えればいいか?四則演算記号は割り算以外はこちらと同じだから数字だけ置き換えれば使えるはずだ。
あちらの数学の発展を妨げないよう機能を限界まで落として貰う事になるかもしれないが俺は知らん。
隙を見て飯島に電卓の事を伝えておくと『了解』とのみ返事が来た。
あとはもう飯島とお偉方が決めてくれ。俺は知らん。
と言う訳で科博の見学を終えて建物を一歩出れば、公園通りに面した駐車場が高そうな車で埋まっている。
「これに乗るんですんね?」
そう声をかけてきたのはハルトル宰相だ。
「はい。それぞれの車に各家の紋章旗を刺してありますが、その車と運転士はこの旅の間専任となります。言葉はあまり出来ませんが意思疎通補助のためのカードを車内にご用意してありますので、ちょっとした意思表示にお役立てください」
車には事前に『トイレに行きたい』『後どのくらいで到着するのか』『車内が寒い/暑い』などのメッセージが日本語と大陸標準語でまとめられた挿絵付きカードを用意している。運転手側も挨拶やイエス/ノーぐらいは話せるし、無理なら車内に乗せた無線機などで通訳を呼んで通訳して貰えるよう準備しているからなんとかなるだろう。
「ご丁寧にありがとうございます」
ハルトル宰相は自国の紋章と北の国の王家の紋章入りの車を確認すると「行きましょう」と北の国の王に誘いを掛けて乗り込んでいくと、他の人達もゾロゾロと車に向かっていく。
特別に用意した防弾ガラス入りの黒いセンチュリーには北の国の国王とハルトル宰相を、北の国の宰相補佐官や貴族には防弾ガラス入りの黒いレクサスを、俺たちと車に乗せられなかった従者と荷物を大型バスに詰め込むと車は一路次の目的地へと走り出して行った。




