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手術当日は前日夜に降った雨のせいでひどく蒸し暑い日だった。
エアーで膨らませて使う簡易手術室の窓に張り付くようにして弟・アナマキ氏を見守るフィフィタ氏の目には強い祈りが込められ、手術室内にいる柊木医師も緊張の面持ちを見せている。
この手術が成功すれば俺たちを含め地球は彼らから信頼を勝ち得て、この世界における協力者になってくれる可能性が開ける。
「……こればかりは祈るしかないな」
「大丈夫だろう、彼らはプロの医療人だ」
手術台に横たわるアナマキ氏の身体に静かにメスが入っていく。
ジメジメとした湿気と強烈な日差しの下で瞬きもせず弟の無事を祈る兄の強烈な存在感を窓越しに感じていながらも、その洗練された手技は澱みなく身体の悪い部分を取り除いて綺麗な人工物へと取り替えられていく。
「確か3時間くらいで終わるって言ってたよな」
「ああ、最後まで見届けるか?」
「最初の中間報告に入れておこう」
現代日本の科学と医療を信じる俺たちにとっても手術が無事終わるかわからず祈るしかない時があるが、科学が未知の領域であるこの世界に於いてはより真摯でシビアな願いの場所になるのだ。
俺たちはその祈りを見届け、地球に伝える義務があるように思う。
炎天下の蒸し暑さの中、俺たちはじっとその手術と祈りと余す事なく記録していく。
ー3時間半後ー
手術室からベッドに乗せられて出て来たアナマキ氏に駆け寄ったフィフィタ氏は、弟の口元に指を当てて呼吸を確認してホッとしたような目をした。
そして弟に付き添うように病室に戻っていく姿をカメラに収めてから撮影終了ボタンを押した。
「大使もいらしたんですね」
そう声をかけて来たのは大きな医療廃棄物のゴミ袋を提げた柊木医師だった。
「ああ。この手術の成功に懸ってるからな。成功したのか?」
「少々手間取りましたが、問題なく」
「なら良かった」
「ところで、この後ちょっと手伝って貰えます?」
背後では簡易手術室を解体して医療廃棄物にする作業が始まっており、アレを手伝わされる事を察してそっと視線を逸らす。
無言で戻ろうとする俺と木栖の肩を引っ掴むと、そのまま俺たちは炎天下の肉体労働に放り込まれるのであった。
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手術後の回復スピードは思っていたよりも早く進んだ。
魔法で自然治癒力を限界まで上げることで地球では2週間程度はかかる抜糸を半日で済ませ、リハビリも想定より早めに進んでいると言う。
これまで立つことも困難だったアナマキ氏が自力で立って膝の曲げ伸ばしをしたり、地球から持ち込んだ車いすで動く姿は周囲に回復を実感させた。
地球の医療が異世界で生活の質を向上させる姿は間違いなく彼らの意識を変えるだろう。
柊木医師によると、他の患者も症状が改善してきたようだという。
(あとはこの医療支援を継続させて薬を買ってもらう事か)
最後のハードルは静かに俺たちのところへやってくる。




